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 兄ちゃんの赤くなった耳に、もう一度口を寄せる。  ふわ、と髪からシャンプーの香りがした。  僕が学校に行っている間、シャワーに入ったようだ。僕が何度も鏡の前に立って身支度を整えたように、兄ちゃんもきっと同じことをしていたのだろう。  声しか知らない僕の姿や、僕と肌を重ね合うことを想像して、緊張と興奮で胸をドキドキさせていたのだろう。僕と同じように。    ふぅーー‥‥と耳に優しく息をふきかける。   「うぁ、あっ‥‥」    兄ちゃんは声をあげて、焦れったいように体を軽くよじらせた。  思わず出てしまった声を恥じてか、顔や耳だけじゃなくて、首まで真っ赤になっている。    思わず口角が上がってしまう。    ‥‥やっぱり、耳が弱いんだ。  熱くなった耳にかぶりつくと、ひくっと兄ちゃんの喉が鳴る。  わざと息があたるようにしながら、耳朶や耳輪を軽く噛む。    兄ちゃんの耳はどんどん熱くなる。なんだかこのままジュワッととろけてしまいそうだ。   「耳、くすぐったいの?」  くすぐったいんじゃない、ほんとは感じてるんだ。僕はそれを知っている。  でも兄ちゃんは唇を震わせて、なにも言わない。  もう一度耳に噛みつこうと口を開くと、 「や、やめ‥‥」  と掠れた声を絞り出す。  やめろやめろって、さっきからそればっかり。 「分かった。‥‥じゃあ耳はやめるよ」  僕はそう言って、顔を静かに横にずらし、兄ちゃんの唇に僕の唇を近づけた。  察してか、兄ちゃんの体がピク、揺れる。  お互いの熱い息を感じる。  兄ちゃんの睫毛が、震えているのが見えた。  僕を避けて、睨んで、「話しかけるな」と冷たい声で言っていた兄ちゃん。いつも部屋のなかに閉じ籠って、返事をしない兄ちゃん。あの兄ちゃんが、今こんなに近くにいる。なんだか不思議だ、まるで夢でも見ているようだ。      優しく、キスをした。  ほんの少し触れる程度の軽いキスだ。  ふに、とした柔らかい感触。しっとりしていて、あたたかい。  唇を離して、兄ちゃんの顔を見る。  兄ちゃんはギュッと固く目を瞑っている。    ‥‥可愛い、兄ちゃん。  だめだ、もう止められそうにない。    もう一度唇を重ねる。  無意識に、兄ちゃんの腕をつかんでいる手に力が入ってしまう。  兄ちゃん、抵抗しないの?  僕たち、キスしちゃってるよ。    兄ちゃんの唇の感触をしばらく楽しんだあと、僕はその唇を舐めた。兄ちゃんの体が強張るのを感じた。  舌を唇の割れ目に差し込もうとしたけど、兄ちゃんは硬く唇を結んだままだ。 「くちあけて、兄ちゃん」  僕がそう囁くと、兄ちゃんは目を瞑ったまま、頭を振った。まるで駄々をこねる子供がイヤイヤをするみたいに。 「あけて」  もう一度、今度は少し強い口調で言う。    
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