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「ただいまー」  家に帰ると、玄関にまでカレーのいい香りがしてきた。  それにこの香り、ただのカレーじゃない。おそらく僕の大好物であるチキンカレーだ。僕はワクワクした気分でリビングに入った。 「おかえり晶人。今日は遅かったのね。カレーできてるわよ、手洗ってきなさい。」  母さんはそう言いながらキッチンで四人分のカレーをお皿にたっぷりよそっている。  父さんが一番端の椅子にどかりと座る。その横は母さんの席だ。 そして父さんの目の前が僕で、その隣は‥‥ 「晶人、悠の分持っていってあげてくれる?」    皿によそうのは四人分だけど、テーブルに並べる皿は三人分だけ。  数年前まで、僕の隣には兄ちゃんが座っていた。  でも今はお皿もスプーンもお茶の入ったコップも置かれていない。僕の隣が寂しくぽっかりと空席になってから、もう二年以上が経つ。 「分かった」  僕はチキンカレーの入った皿とスプーンを乗せたお盆を両手で持つと、二階へと繋がる軋む階段をゆっくりと登っていった。  廊下の一番奥、そこが兄ちゃんの部屋だ。
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