178人が本棚に入れています
本棚に追加
「美緒、ごめん、本当にごめん。」
聡ちゃんが私を抱きしめたまま、何度も謝るけど私は納得できずにいた。
「どういうこと?こっちの大学だって、言ってたよね?」
「やっぱり、東京の医学部に行くことにした。待ってて欲しい!必ず戻って来るから!」
「そんなこと言って、みんな帰って来ないんだって知ってるよ!
みんな東京に行ったら、忘れちゃうんだから!この山もこの川も、人だって全部!」
私のことだって、きっと…。
聡ちゃんは元々は東京の人で、母親の故郷のこの地を病弱な母の静養先に選び、彼が中学の時に母子で移り住んで来た。
しかし、その母親も今年の初めに亡くなり、今は母方の祖母と二人で暮らしているが、東京に父親と兄がいる。
だからきっと聡ちゃんも、ここには帰って来ない。
ここで生まれ育った両親の間に生まれた私は、地元の短大に進み、両親とこの町でずっと暮らすのだろう。
大好きな聡ちゃんと離れて。
最初のコメントを投稿しよう!