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それから数日、聡ちゃんに会うことはなかった。
聡ちゃんの夢の為だとは分かっていたけど、タイミングを逃した私は、相変わらず素直になれずに意地を張っていた。
明日、ついに聡ちゃんは東京に行ってしまう。
聡ちゃんからのメッセージにはバスの出発時刻が記されていた。
"9:45発のバスで行く、会いたい。"
だけど私は行かない、サヨナラなんて言いたくない。
その夜、私は一睡も出来ずにいた。
朝になって怖くなった。
私の頑な態度を聡ちゃんはどう思ってる?
きっと呆れているだろうな。
バスの出発時間が近づいてきたが、私はバス停には行かずに、山の展望台へ向かった。
ここから見えるんだ、聡ちゃんが乗ったバスが。
途中の停留所で時間調整の為に、バスは数分間停車する。
あっ、バスが来た!
「聡ちゃん…。」
遠過ぎて、聡ちゃんの姿なんて分からない。
だけど乗ってるんだ、聡ちゃんが。
展望台から、たった一人でバスを凝視していると突然、バスの窓を誰かが開けたのが分かった。そして、両手を大きく振っている。
聡ちゃん?
涙が溢れて、よく見えないけど。
だけど、ずっと手を振り続けるのは…、きっと聡ちゃんに違いない。
私は声を張り上げて叫んだ。
「聡ちゃーん、待ってる!待ってるから!」
間もなくバスは出発したが、バスが見えなくなるまで、私も聡ちゃんも手を振り続けた。
行っちゃった…、聡ちゃん。
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