早く大人になりたかった

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早く大人になりたかった

c6119384-4604-4b14-b13d-0a10a51102cd 今日私は15歳となり成人式を終えた。 この裏月(リゲツ)世界の文明国では15歳で成人。 そして人は皆、春分の日か、秋分の日に歳を重ねることになっている。 私の場合は本当は夏生まれ。 だけど春分を過ぎて生まれた者は悉く次の秋分の日が「誕生日」という事にされてしまう。 生まれてから初めて迎える春分の日か秋分の日が、裏月世界の人間達にとっての「1歳の誕生日」となり… それ以降は一年毎に1つずつ歳を重ねていくことになる。 そうして十五回目の秋分の日である今日が成人式だった…。 一週間後にはいよいよ魔法使い適性者を割り出す通過儀礼が行われる。 この通過儀礼に関しては多くの人々が勘違いしているのだけど… 裏月世界では別世界から来た新規参入者が「ケータイ電話の乗り換え特約」よろしく「接続承認契約」という契約を結んでから【参入】し、それによって魔法使いとなれるのである。 つまり【世界】そのものが… 地球の文化で言うところの仮想現実体験型多人数オンラインゲームのようなものだという事。 当然ながら普通は参入後にその事実に気付く人間はいない。 通常は接続承認契約を結んでいる接続承認契約者のみが鉄の通過儀礼と呼ばれる儀式を受ける事によってその事実に気付くことが出来る。 通過儀礼が行われることで 「接続承認契約者が契約の履行を請求してますよ〜」 というメッセージが【世界】の【管理者】側に届き そのメッセージを受けた【管理者】が契約者を確認。 それによって契約者の身に変化が齎される。 「本来の魂の記憶を思い出す」という変化に加えて… その契約者の身体にある遺伝子情報の中で最も優秀な遺伝子が覚醒するよう促されるのである。 それによって瞳の色や髪の色が変化する。 それにひきかえ… 私が「本来の魂の記憶」を取り戻した過程はかなり特殊な事例だと言える。 乳幼児期から何度も死にかけたという事もあり、未だ通過儀礼を経ていないにも関わらず、本来の魂の記憶は殆ど取り戻している。 貴族の家に生まれついた事もあり、魔力もある。 自分が接続承認契約を結んで参入したことも覚えている。 ある意味チートだった。 難点があるとすれば「魔法使いは爵位を継げない」という決まりがある点か。 私は実子のいなかった叔父の元に養子として此地(ラーヘル)にやって来たこともあり、当初は伯爵位を継ぐことになる可能性にも配慮する必要があった。 自分が魔法使い適性者(接続承認契約者)であることを周りの者達に隠しておかなければなかったのだ。 だけど義父であるアイル叔父さんは、私が養子に来た後に3人もの女性と結婚して、3番目の愛妻との間には6人もの子をもうけた。 最初の子は双子で二卵性双生児の男女。 長男は生まれてすぐに公爵家に養子として取られてしまったが… (ほぼ強奪?人攫い?) その後生まれた4人の子供のうち3人は男子だ。 3人もいれば後継者には事欠かないだろう。 というわけで、私が爵位を継ぐ可能性は無くなったわけだ。 私は魔法使い適性者である事を隠す必要も無くなり、四男が生まれた頃には普通に前世の話を大っぴらに話すようになっていた。 子供達の母親である義母のイオリさんは、私と同じく地球からの(しかも同じ日本からの)転生者であり同じく接続承認契約者である魔法使いだ。 私にとっては良き相談相手だった。 しかし「イオ夫人の悪口を言うと、彼女の眷属である虫達や小動物達から襲いかかられる」のはラーヘルでは有名な話だ。 イオリさんは決して甘い人間ではない。 何せやり手で知られる美貌のラーヘル辺境伯たる叔父の唯一の恋愛結婚の相手でもある。 (他の夫人は政略結婚) 義父であるそのアイル叔父さん自体かなり癖がある人だ。 叔父もまた私と同じく、乳幼児期には身体的に虚弱で何度も死にかけ、前世の記憶・本来の魂の記憶を取り戻していた接続承認契約者だったのだ。 彼の場合は「隠れ魔法使い」となって、対面的には魔法使いである事を隠し、伯爵家の嫡男として爵位を継いでいる。 長男は公爵家に取られたものの、次男はこの秋に8歳になった。 後7年で成人。 叔父は次男が成人すると共に爵位を譲るつもりでいる。 (アイル叔父さんは隠れ魔法使いのまま伯爵でいる事に内心罪悪感があったんだそうな) ともかく私の育った環境は色々と「秘密」に囲まれていて複雑だった。 しかし一週間後の通過儀礼で魔法使い適性者だと認められると… 首都ガーローンの魔法省本部近接の魔法省直轄施設に召集され、王都の地下にある[拝領の間]にて魔法行使媒体を神(管理者のことね)から授かる。 そして三週間ほど魔法使い見習生として研修を受け、その後は新人魔法使いとして二年間御礼奉公することになるのだ。 (本当にやっと魔法使いとしての人生が始まるんだよなぁ…) と、私は感慨深いものを感じて しみじみと過去を振り返ることにした…。
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