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洗脳術
それにしても…
『魔力回路の機能化』という作業はかなり難易度が高かった。
魔法使いと非魔法使いとの格差として、何も魔力回路の合理性と機能性の差がある。
私の場合は接続承認契約者なので成人後の通過儀礼によって魔力回路がその時点で魔法使いのものへと変化する可能性が高い。
なので魔力回路の増設はしない方が良いと言われている。
だからこその『機能化』なのだが…
ハードルが高い…。
何故洗脳術に「目から魔力を放出する放出口が必要になる」のかと言うと。
人体内の「静電気」が頭部のチャクラで「脳波パターンのリズム」を模倣し、情報波へと変わる。
情報波=信号波、魔力=搬送波の「洗脳波」を最短ルートで外部へと放出する場合、目から放出するのが最も適していて合理的だからなのだそうだ。
イオリさんの場合はナノマシンが彼女の自我を自我形成情報としてデジタル化してから、それを「静電気」に複写して「魔力」に乗せて「洗脳波」を自動的に形成してくれているのだそうだ。
ナノマシンが無い非魔法使いの場合は
「ナノマシンによる自我情報のデジタル化」という処理がない。
静電気を情報波へ変化させ、
それを信号波として、搬送波と組み合わせ変調させることからして「術者自身が意図して」行わなければならない。
しかも非魔法使いの場合は魔法使いほど魔力回路が機能的ではない。
魔力の放出口を増設することも魔力回路の機能化も難易度が高いのだ…。
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「洗脳術は端的に言うなら読心術の応用でもあります。
読心術を行っている時の術者の状態というのは、頭部のチャクラの周りに或る程度の量の魂の纏まりが付随していて、それが司令塔の役割を果たしています」
「その司令塔を基地にして幾つかの探索型の魂の粒子が、対象の頭部に近付いてチャクラから対象の魂の粒子を引きずり出して接触しています。
そして探索型が司令塔と同期化する事で情報が共有されています」
「これと同じように相手の魂の粒子を引きずり出して接触し、『読み取る』代わりに『一方的に送りつける』感じになります」
「その際には『送りつける情報』が『こちらの自我の代替品または複製品』である必要があります。
つまり特定のキーワードや特定の映像的イメージに、こちらの世界観や価値観を含ませておく必要があるのです」
「そういった『仕掛け付きのイメージ』を対象の潜在意識に送りつけて、無意識領域に潜伏させる。
それによってそれらのキーワードや映像的イメージが対象の中で潜在的に連想的に浮かび上がってきた時に『こちらの創り出したルール』に対象は自覚のないまま従う事になります」
「『魅惑魔法(魅惑魔術)』は基本的にこうした『仕掛け付きのイメージ』を『強制的に送りつける』のではなく相手が自分から進んで自分の中に取り込むように仕向けるものを指します」
「娯楽・サブカルチャーといった類の精神的消費物は、すべからく『仕掛け付きのイメージ』を自分から進んで取り込むものである為、魅惑魔法の一種だと言えます。
魅惑魔法は『芸術的に優れた資質』が必要となるので、それを使いこなせる人間は限定される事になります」
イオリさんの魔法講義は『概念の無い者は理解できない』という【世界】のよって齎される認識阻害が降りかかる事で難解化されてしまうのだが…
それでもその話は理解出来る者には『創造』というものの中にある『着目されざる裏方の一面』をかなり正直に告げている事が解る。
「さて、実践に入る前に大事な点の説明を補足して置きます。
非魔法使いは『転写』というアナログ形式で創り出した自我情報を使って標的の自我に干渉を行うことになる訳ですが。
標的に送りつける自分の自我情報は『抽象記号化したもの』でなければならなりません」
「何故そうする必要があるのか、という点ですが。
『影響力を一方的にする為』です。
自分の自我をそのまま転写して『鋳型』を創り出し、その鋳型で標的の自我に上書きするといったアナログ情報をアナログ方式で転写するやり方だと『絆』が生じてしまいます」
「そうなると『感染呪術』的な作用の働きによって影響力が相互的になってしまいます。
生きた動物や魔物を使い魔にする『使い魔使役術』だと術者が使い魔の影響を受けてしまうわけですが。
それにはこうした『感染呪術』的な作用が原因としてあるのです」
その言葉を聞いて
ふと(イオリさんは眷属との間に絆を持ってなくて、一方的に影響を与え続けているだけなんだよな)と思い至った。
勿論、何故そうなのかも判る。
彼女の眷属は「矯正・更生を必要とする元犯罪者達」が多い。
影響力を一方的にしておくしかないのだ…。
そのことはサークダも理解できたらしく神妙に頷いていた。
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魔術的な意味での万物照応表作りは「世界観・価値観の抽象記号化」である。
そしてその「世界観・価値観の抽象記号化」が術師の自我の影響下で行われた場合には、そうして作成された「万物照応表」は『抽象記号化された自我情報』となる。
魔法使いが標的に自我の上書きを施す場合は「上書き情報」はナノマシンが自動的に作成してくれた「自我形成情報」となるのだが
非魔法使いが標的に自我の上書きを施す場合は『抽象記号化した自我情報』を用いることになる。
なので非魔法使いが洗脳術を行うに当たっては「万物照応表作り」が必要になるのだ。
そもそもが『自我』とは『魂の下請け的な意識体』を指す。
魂は半物質であり肉体を纏わなくても存在できるので、魂は自分の肉体を維持していく必要性をしばしば忘れる。
それ故に肉体を持つ人間の自己保存本能は、魂の働きを真似た『自我』を作成することで肉体の延命を図っているのだと言える。
スピリチュアル的に言うならば
魂=ハイヤーセルフ
自我=肉体を持つ生者としての自分
という位置付けになる。
「自我とはあくまでも肉体の自己保存本能に基づいて形成されるものである」
という事実を失念してはならない。
それを失念することで
「死後も魂と自我の癒着が解けずに【覚醒】できない者もいる」
のである。
他人を餌食にして貪ると意識の周波数帯が『人類』の基本の周波数帯から逸脱してしまう。
人類の繁栄は『人間中心主義』を主体とする意識の周波数帯からなるのだと思っていい。
主に動物実験によるデータを役立てた技術や商品が社会内に流通して万人がその恩恵を受けている事によってーー
特に医療行為や医薬品の普及と利用によって
『人間中心主義が人類の繁栄の基礎』に定まっている。
そうした側面から
対人搾取は人間中心主義から逸脱してしまうし
極端な動物保護を唱える人間達も人間中心主義から逸脱してしまう。
そうした『人類の意識周波数帯』から外れた多数の意識体が
人類の繁栄の基礎を否定しながら『人間社会にしがみ付こうとする』から…
【世界】に深く埋没して閉じ込められて覚醒できずに『悪霊化』するのである。
『万物照応表作り』という『自我情報の抽象記号化』は、当然の事ながら『人類の意識周波数帯』を再現するものでなければならない。
それはつまり「自分自身の意識体が『人類の意識周波数帯に共鳴している状態』で万物照応表を作成しなければならない」という事を示している。
そのようにして形成した万物照応表に基づく『仕掛け付きのイメージ』。
それを相手の無意識に植え付ける事で、植え付けたものに関連するイメージがその相手の潜在意識に浮かんだ時に「ルールが発動する」事になる。
洗脳術とは本質的には「世界観の埋め込み」による「世界観の内部にあるルールの強要」なのだと言える。
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「中庭の猫達のうちの一匹を私にくれませんか?
非魔法使いでも自我の上書きがちゃんとできるかを試したいし、上手く眷属化できれば使役したいので」
私がそう言うと
「うーん。猫ですか…。鳥とかの方が良いんじゃないですか?
眷属化の実験用にはミソサザイを捕まえてきてもらってて確保してたんだけど」
と、イオリさんは難色を示した。
『影響力の一方通行』が上手くいっていなかった場合には、同じ哺乳類だと眷属からの影響を受けやすくなる可能性があるのだそうだ。
だけど詳しく聞いてみれば『一般的な使い魔使役術』を使って生き物を使い魔として使役している魔力持ち達は皆、そのリスクを抱えながら使い魔を使役しているのだという。
猫を使役していた人がある日突然ネズミを喰らいだす。
鳥を使役していた人がある日突然虫を喰らいだす。
吸血蝙蝠を使役していた人がある日突然生き血を啜りだす。
そうした異常行動は感染呪術的作用が働いて『影響力の一方通行が上手く機能していない』ことで起こることなのだとか。
「でもまあ、猫も個体差があるから。あまり自我が強い仔じゃなければ、そうした事態も起こりにくいのかも知れませんね」
そう言われて、自分が眷属化したいと思った猫の様子を思い浮かべてみた。
「えっと。体の毛の色が黒くて、顔と足の毛の色が白い、いわゆる『ホワイトソックス柄』の仔を眷属化したいんですけど…」
私がそう言うと
「あの大人しそうな仔ね。良いんじゃない?」
と、急に納得してくれた。
不気味に思ってイオリさんの顔をまじまじと見詰めて
「賛成してくれるんですね」
と訊くと
「メレムタさんを読心した時に…度々見えるセーラー服姿の女の子がああいう大人しそうな雰囲気だよね」
と、ほくそ笑みながら答えてくれた…。
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