私の生い立ち

1/1
前へ
/49ページ
次へ

私の生い立ち

7d8a8187-7ccc-4e0d-aaa3-27e5dbe61f8e 私は本当に虚弱な体質だった。 両親からは 「この子はいつ死ぬかも判らないのだから、当人の好きに過ごさせてやろう」 と思われていた。 そのお陰でろくに躾も施されず甘やかされ放題のまま4歳までの時を過ごした。 転機が訪れたのは 「母の弟であるラーヘル辺境伯が養子を欲しがっている」 という話が舞い込んだ頃だった。 私が健康なら、その時点で迷いなく両親は私を養子に出した事だろう。 何せラーヘル辺境伯である叔父はナハル国でも屈指の金持ち。 様々な魔道具を開発して知的財産権で儲けている他、様々な出資をして儲けを出している。 ラーヘル辺境伯の後継者となれば人生安泰だ。 もしも養子に入った後で伯爵に実子が出来て後継者から外れても血縁者であることに変わりはない。 ラーヘル砦の要職に就けることは間違いない。 やはり実家の穀潰しとなるより余程生き甲斐、やり甲斐のある人生が拓けている。 そんな折にーー 私はまたも死にかけて… 本来の魂の記憶を思い出し、自分が接続承認契約者であることを自覚したのだった…。 不思議な事に 前世の記憶が完全に戻ってアイデンティティが前世寄りになった事で、私は体質が変化してしまい、急に風邪一つ引かない健康体になってしまった。 両親は驚き訝しんだ。 外見は全く変わらない愛くるしい幼児のままなのに、やはり中身がオッサンに代わってしまうと、どこか違和感を感じさせてしまうようだった。 一度母に「あなた誰?」と訊かれた。 そして母は 「前にも同じことがあったわね…。そうアイルも小さい頃は虚弱でいつ死んでもおかしくない子だったのに急に健康になって、人格が変わったようになってしまったのよ…」 と何かを思い出すかのように独り呟いた。 私は耳聡くそれを聴き (アイルって叔父のラーヘル辺境伯だよな?接続承認契約者は爵位を継げない筈なのに…。隠れ魔法使いなのかな?) と、とっさに推理した。 そして (アイル叔父さんってどんな人なんだろう?) という好奇心と、勝手な親近感を感じた。 そんなこともあり私は 「私はラーヘル辺境伯の養子になりたいです」 と要望を口にするようになった。 母親としても私のことを気味悪く感じながら我慢して一緒に居続けるより… やはり同じように気味悪く感じたことのある弟の所へと私を擦りつける方が得策と判断したようだった。 そうして私は5歳になる前に ラーヘルへと養子に入ったのだ…。 ラーヘルでは皆から好意的に受け入れられた。 元々の虚弱で甘ったれだった我儘な私を知らない人達ばかりだから 「中身がオッサンの幼児」 に対して違和感を感じ取れる人も少なかったのだろう。 滑り出しは上々だったと言える。 しかし義父となった叔父のアイルはと言うと… とんでもないイケメンの女たらしだった…。 私の世話係りとしてネヘミヤ子爵夫人が付き添ってくれる事になったのだが… この女性。 なんと叔父の長年の愛人だった…。 (叔父よりもかなり年上!15〜20くらい年上と思われる。ストライクゾーン広すぎ!) しかも砦で見かける見た目の良い下働きの女性は殆どが「ヤリ捨て」されているような有様だった。 それでいて誰も叔父を恨んでないのが凄い…。 ヤリ捨てしておいて… 女の方に自発的に 「私などアイル様に相応しくないから捨てられても当たり前。一時だけでもお相手させていただけただけでも有り難いと思わなければ…」 などと思わせてしまうというーー ナチュラルな自己正当化洗脳力(!)みたいなものが発揮されてるのを感知してしまい… 軽く戦慄してしまった…。 (羨ましさのあまり) そんな環境の中で 私がラーヘル砦で好意的に受け入れられた原因の一つには、私のすぐ後にラーヘルに輿入れして来たジット公爵家の令嬢ライラの評判があまりにも悪かったせいもあったのかも知れない。 当初からライラ嬢は変だった。 叔父を金蔓のように考えていたらしく、ラーヘルに来るなり贅沢三昧だった。 当初からライラ嬢は誰かの子を身篭っていたのだが、それも後日発覚した。 叔父はライラ嬢とは「あくまでも政略結婚であり愛情は無い」という態度を終始一貫して取っていた。 女好きの叔父が一度も同衾していないというのだから、余程初めからライラ嬢を胡散臭く感じていたのだろう。 一方でーー 後に叔父と恋愛結婚するイオリさんは当時は竜騎士でもあるハーバーローシュ騎士爵と離婚して間も無い頃だった筈だが 叔父は余程彼女を気に入っていたらしくて、丁度その頃彼女に手を出している。 Aランク冒険者並みの瞬間殺傷力を持つ女魔法使いに催淫剤を一服盛ってレイプ紛いに押し倒すなど… (レイプ紛いというか、レイプだよな…) 普通の男は命が惜しくて到底考え付かないと思うのだが… 恋する男というのは… 時に無謀に盲目的に「ヤリたい!」という獣慾に脳が汚染されて判断力を喪失する生き物なのであろう。 叔父はヤラカシてしまい、結果的に彼女を快楽の虜にして一度は情人の一人として囲うことに成功している。 (その後フラれているが) イオリさんは当時は私の魔法・魔道具関連の教育係でもあった。 なので私は「イオ先生」と呼んでいた。 (叔父と彼女の結婚後は「お義母様(かあさま)」と呼び名を変えたが) 彼女は「中身オッサン」の私から違和感を感じ取ったラーヘルで初めての人間だったかも知れない。 今やお色気ムンムンの伯爵夫人として美貌にも迫力があるが、当時はまだ少女っぽさが残る年代だった。 人形のような整った外見と銀髪紫眼の色素が薄い色合いもあいまって妖精(エルフ)か何かを連想させる儚げな雰囲気の人だった。 私は当時はまだメレムタ・アニラーハムとしての人格も残っていて それでいてアイデンティティが前世の禁欲的だった晩年の頃の日向照(ひゅうがてる)に塗り変わっていたこともあって 「子供っぽさと年寄り臭さの融合した変なガキ」 だったと思う。 彼女からは完全に「お子ちゃま」扱いされていたが。 しかし叔父とネヘミヤ子爵夫人との間の年齢差を思うと… (私とイオリさんという取り合わせも「あり」なんじゃないかと思わないでもない…) しかし不埒な妄想をすると色んな人間から殺意を向けられかねない…。 その辺の妄想はあまり突き詰めないでおくに限る…。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加