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当時の環境
この世界は一夫多妻制。
アイル叔父さんはジット公爵令嬢のライラと結婚後、アメリア国のカルターリ公爵令嬢のフィオナとも結婚している。
更には一度は破局したイオリさんとよりを戻して彼女とも結婚している。
当時の国際状況が…
北方のアクラビム砦の向こうに広がるアメリア国で内乱が激化していたこともあり、アメリア国の王族・貴族の大半が他国に亡命していた御時世だった。
なのでナハル国にも多数のアメリア貴族が居着いていた。
しかし当時のナハル国は他国の人間から徹底的にナメられていたようで、ナハル国で妙な暗躍をするアメリア貴族が後を絶たなかった。
ナハル国はアングラでは「国の重鎮が売国奴ばかりのスパイ天国」と呼ばれていたのだ。
叔父の結婚の背後にも政治的背景があったことを当時の私は全く理解していなかった。
政治というものに関しては前世でも「我関せず」を通して来ていたという事もあり…
今世でも「我関せずの態度でいればやり過ごせる筈だ」と、何処かで世の中を甘く見ていたのだと思う。
そんな中、私はラーヘルに来て一年と数ヶ月を経て6歳になっていた。
その頃、アメリア国から避難してきたアメリア国の魔法使い適性者達がラーヘルにやってきていた。
人外境にある[拝領の間]へと転移できる『使い捨て転移魔法陣』の巻物をアメリア国に販売することになったのだ。
[拝領の間]ーー。
それは文字通り「拝領」が行われる間だ。
魔法使い適性者である接続承認契約者は[拝領の間]において魔法行使媒体を神(管理者)から授かるのだ。
魔法行使媒体はナノマシンだと言われているが…
ともかくそうした不思議物質が与えられて初めて接続承認契約者は「魔法使い」となれるのである。
さて、その[拝領の間]だが
裏月世界の各地に碁盤の目のように張り巡らされている。
ナハル国の[拝領の間]は王城地下にある。
その真北にシュタウフェン国の[拝領の間]があり
真南にシュナハーカム国の[拝領の間]があり
真東に人外境の[拝領の間]がある。
(真西は海の真っ只中)
因みに[拝領の間]を有していない国も多い。
ナハル国と隣接する6つの国のうち、シュタウフェン国とシュナハーカム国を除く
カペー国、
アメリア国、
マジャール国、
アッコン国。
これら4つの国に共通して言えることだ。
それらの国にとって
「[拝領の間]を有する国を乗っ取って自由に[拝領の間]を使えるようになること」
は国力増強の手っ取り早い手段である。
なにせこの世界。
何処の国でも「魔法使いは国の財産」と見做され、魔法使いは強制的に公務員扱いされることになっている。
魔法使いが増えればそれがそのまま国の手駒になるのだ。
魔法行使媒体を授かる拝領の間が王城地下にあるという事もあり
「魔法行使媒体を授かる」ことは「国から恩を受ける」ことなのだと見做される。
必ず「二年間の御礼奉公」が必要となる。
それだけではなく魔法使いの婚姻に関しては国王の許可が必要になる。
魔法使いが貴族と結婚する場合は簡単に許可が下りるが、平民と結婚する場合には簡単には許可が下りないと言われている。
それというのも「魔法使いの優秀な魔力回路と魔力を受け継いだ遺伝子」を貴族階級で独占して、平民との格差を保つ目的らしい。
しかしそれでいて魔法使いは爵位を継げない。
魔法使いが爵位を継いで政治に関わると王族を上回る力を持つことになり、王族の優位性を確保できなくなるからなのだそうだ。
色々とこの世界では特有の決まり事がある。
そんな中で「人外境の[拝領の間]へ転移できる転移魔法陣の販売」は画期的な商売だと言える。
[拝領の間]を国土に有していない国を相手に売りつければ、必ず需要が生じる。
案の定アメリア国が転移魔法陣を購入した。
1人の魔法使いと6人の魔法使い適性者を人外境の[拝領の間]へ転移させることになり、当事者達がラーヘル砦の多目的広場に集まっていたのだった…。
***************
ーー私は初め
その女性を見て
(これは天罰なのだろうか…)
と思った。
前世で私は余りにも自分自身を美化して欺瞞に耽り過ぎた。
今世でもそうだ。
その頃はまだまだタップリ欺瞞に耽っていた。
自分の中に浅ましい情動など無いのだと、そう思い込もうとしていたのだ…。
***************
アメリア国の魔法使い適性者達が多目的広場から人外境の[拝領の間]まで転移して、そこで拝領の儀を終えて再び多目的広場に帰って来るのを眺めながら
「あれ?皆さん様子が変ですね。とても動揺しているようです。何かあったんでしょうか?」
と私は呑気に、義母であるイオリさんに話しかけていた。
「そうですね。何事か訊いてみましょうか?」
イオリさんが転移して戻ってきたばかりの魔法使い適性者の1人に上品に話しかけた。
「何か御座いましたか?」
彼女特有の目が笑ってない笑顔で話しかけられて…
アメリア国の魔法使い適性者は蛇に睨まれた蛙のように萎縮してしまった。
なので「見た目愛くるしい幼児」の私が、安心させるように穏やかな声音で再び話しかけてみた。
「何かあったんですか?落ち着いてください。助けが必要ですか?」
私がそう尋ねると
「助けは…必要ありません。私達には。だけど地球からの転移者には助けが必要でしょう」
魔法使い適性者の女がそう答えた。
「地球からの転移者ですか?転生者じゃなくて?」
私がそう尋ねている時に丁度最終便の転移魔法陣が輝いた。
魔法使い適性者達を引率する為に付き添っていたアメリア国の魔法使いが帰ってくる筈だったのだ。
1人で…。
なのにそこには件の魔法使いの他にもう1人居た。
[拝領の間]へと向かう時には居なかった筈の人間が…。
私は驚愕した。
いや、私だけでなくその場にいた者達皆が驚愕していた。
何故ならアメリア国の魔法使いと一緒に人外境から転移して来た人間は明らかに地球の、しかも日本人の特徴を有していたからだ。
「セーラー服の女子高生…」
誰かがそう呟いた…。
そのセリフは私が脳内で呆然と呟いた言葉と全く同じだった…。
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