セーラー服の女子高生

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セーラー服の女子高生

64f0e495-8f96-4c35-8a3d-ef63fe1875fa確かにセーラー服の女子高生だった。 おそらく日本人だ。 鞄のポケットから携帯電話のケースが見えているのだが、鞠や蝶が描かれている和柄だ。 肩の辺りに掛かる直毛の髪は真っ黒というよりは今時の高校生らしく少し色が抜けている。 やや童顔でクッキリした二重瞼の黒目がちなアーモンド型の瞳は真っ直ぐに見つめられると「責められている」ように感じるくらいに所謂「目ヂカラ」が強い感じだ。 (随分と綺麗な子だけど、随分と反抗心が強そうな性格にも見える…) それが彼女に対して持った第一印象だった。 (それにしても、何だってセーラー服の女子高生がコッチに転移してくるんだ?まさか私への当てつけか?天罰か?) その頃には前世の自分が本当は「セーラー服フェチだった」ことを自覚するようになっていたのだ…。 大好きだった女性(ひと)ーー。 初恋のーーというよりも 前世で唯一恋したただ一人の女性(ひと)。 彼女の事を思い浮かべると、それはいつもセーラー服姿だったから…。 「皆さん何事もなく無事に戻って来れて何よりでした。 人外境のど真ん中でいきなり地球から転移してきたセーラー服の女子高生と遭遇するというアクシデントはあったようですが…」 イオリさんが女子高生を警戒するように鋭い視線を向けた。 女子高生が怯んだように後退りしたので私は急に憐憫の情に突き動かされた。 「お義母様(かあさま)、怯えさせてますよ。 事情は判りませんが彼女自身に我々に対する害意があって此処に居るという訳ではない限り、変に警戒する必要は無いのだと思います」 私がそう言うとイオリさんは納得して頷いた。 「そうでしょうね。…地球からの転生者ではなく転移者など今まで聞いたこともありませんから動揺してしまいましたが。 彼女に事情を尋ねる必要はあるものの今ここで敵視する必要は無いのでしょうね」 イオリさんは溜息を吐きつつアメリア国の魔法使い適性者達を見回した。 そして 「予定通り魔法行使媒体を得た皆さんを対象に研修のサービスを提供することにします」 と、イオリさんがアメリア国の魔法使い達を睥睨しながら告げた。 魔法行使媒体を獲得して新たに魔法使いとなった者達(に加えて、元々魔法使いだった引率の魔法使いも加えて)向けに行われる研修。 それは衛生観念が発達した世界で過ごした前世の記憶を取り戻した新魔法使いにとっては必須のものでもあった。 「魔法使いである接続承認契約者は、大抵の場合、此世界(リゲツ)よりも文明的に進んだ世界から転生してきます。 そして前世で便利で清潔な暮らしをしていた記憶があるので、なかなか裏月の一般的衛生観念に馴染めません。 一部の国を除き裏月には入浴の習慣がありませんからね。 そうした点も踏まえつつ『魔法』である『裏月世界のタイムラインへの書き換え』に熟練する為の訓練として、ナハル国で積極的に取り入れられている方法が『清潔化』です」 イオリさんが魔法使い達に向かって淡々と説明する。 「先ずは魔法行使媒体を出現させます。 それから入浴して、その体表状態情報を魔法行使媒体に保存します。 後は毎日、保存済みの清潔な状態の体表状態情報を裏月世界のタイムラインの最新データに上書きするだけです。 これで清潔な状態が保たれます」 イオリさんが説明すると それに質問するべくマリナという名の魔法使いが手を挙げた。 「それは自分の状態情報しか出来ないんでしょうか?」 マリナがそう訊くと イオリさんが微笑んだ。 「先ずは『バックアップデータの上書き』という行為に熟練するのが大切ですので、魔力量に余裕があるなら、自分以外の人の清潔状態も保存して、度々上書きしてあげるのも、自分の為になります」 マリナはそれを聞いて女子高生の方を見て軽く手を振った。 女子高生の方でも少し躊躇う様子でマリナに軽く手を振り返した。 「それでは皆さん。魔法行使媒体をハードウェアとして【月影の書】として出現させる為に、先ずは『力の言葉』で『接続端末起動』を意味する言葉を唱えていただきます。 私の後に続いて音写で真似て発音してください」 イオリさんがそう言ったあと 起動呪文を口にした。 皆がそれを真似して呪文を唱えた。 すると拝領の儀で体内に取り込まれたドライアイス状の魔法行使媒体がムクムクと魔法使い達の身体から湧き出して纏いついた。 「魔力を掌に溜めてください。そうすれば魔法行使媒体がハードウェアとして出現します」 皆の掌に光が溜まりだした。 魔法使い達は言われた通りに掌に魔力を溜め続けた。 すると魔法使い達の目の前には、前世の生活で見慣れたネット端末がーー ノートパソコンが出現した。 「研究者達に言わせると、ドライアイス状になって魔法使いの体内に吸収される魔法行使媒体は『ナノマシン』のようなものではないかと言う事です。 真偽は分かりませんが『そのようなもの』だと思って不都合はありません」 「さて、そのナノマシンですが起動には基本的に『力の言葉』による声紋認証が必要です。 一度起動してしまえば所有者が発する「意志の籠った声」なら、その意志を汲み取ってくれるオプションが自動で稼働しますので、あとは何処の国の言葉を使っても構いません」 (スマホやア○パッドの人はいないんだな。…やっぱり皆が地球にいた頃に使ってたものが反映するのか…) 引率者のミツヒデの【月影の書】はトランシーバーだし ナビーと呼ばれていた新魔法使いの【月影の書】は粘土板みたいなものだ。 (余りにも形が違うのだけど、それでも【月影の書】の機能は皆、同じなのかな?) 思わず素朴な疑問を持ったが、その時点では魔法使いでもなんでもない部外者だったので敢えて何も言わなかった。 「皆さん無事に【月影の書】を出現させる事が出来たようですね。 それでは次は実際に【月影の書】を使用する為にも、この後皆さんには体を洗浄して頂きます」 「身体を綺麗にしてから体表状態情報を保存して、その後は『自分自身を被験者にした実験』として毎日『上書き』を繰り返してもらう事になります。 操作自体に熟練するには『毎日魔法を使う』のが一番ですからね」 イオリさんがそう言うと、魔法使いは男性と女性とに分けられた。 引率者のミツヒデに加えて トオル、 マサムネ、 ロバート、 は男性陣。 マリナ、 サツキ、 ナビー、 は女性陣。 男性用には大きな盥が4つ用意された。 「男性陣は各々厨房でお湯を沸かして貰って各自で運んでください。 女性陣は私の私用の浴室がありますので、そこをお貸しします」 イオリさんがそう告げると女性陣は目を輝かせた。 入浴の習慣が無い裏月世界で暮らしながら私用の浴室を持っているのだから、随分と金回りが良い。 しかも夫に金銭的に依存せずにいて、そうした贅沢ができるのだから… 「イオ夫人は怪しげな薬を作ってアルガマン商会との取引で高値で売りさばき荒稼ぎをしている」 という噂は信憑性がある。 私がそういった金勘定に気を取られていると急にイオリさんが笑い出した。 隣ではボーイッシュな雰囲気のショートヘアの女が不貞腐れていた。 リンタロウである。 「ごめん、急にリンタロウのカミングアウトを思い出した…」 イオリさんがそう言うと リンタロウが 「だろうね。俺も思い出してたし…」 と首をすくめた。 何かそこには因縁話があるらしい。 私はその頃は読心術を習っていて、訓練中でもあったので、少し下衆の勘繰りを出してしまい… (あとで読心して真相を探ってみよう) などと思ったのだった。 私が内心で下衆な根性を出していると、マリナと呼ばれていた魔法使いが女子高生のところまで来て 「一緒に入ろう!」 と言い出した。 それから私達のほうを向いて 「この子も一緒に良いですか?」 と尋ねた。 するとイオリさんが何処からともなく(亜空間収納庫から)眼鏡を取り出した。 『魔眼もどき』という魔道具である。 その眼鏡をかけてから 「ふーん。マリナさんだっけ?貴女その子の裸が見たいんだ?もしかして前世ではレズビアンだったの?」 と、ズケズケと訊いた。 マリナが呆気に取られて 「な、な、な、なんでそう思うんですか?」 と吃りながら訊き返した。 「逆に訊くけど、何故バレないと思うの?人の意識は如実にチャクラの活動や魔力の色に反映するんだよ?当然の事ながら性的な興奮もね」 イオリさんが唇の端を上げながら少し皮肉気にマリナを威嚇したので、マリナはそれ以上何も言い返せずにスゴスゴと引き下がった。 下衆な人間はどうやら私だけでは無かったようだった…。 「メレムタさんとリンタロウはその子を見ててあげて、私は女性陣を浴室に案内してくるから」 イオリさんはそう言うと、マリナ、サツキ、ナビーを連れて立ち去った。 男性陣は中庭に天幕を張って、その中で入浴するようだ。 部屋に居た他の人達も天幕を張るのを手伝いに行ってしまった。 なので部屋には私と女子高生とリンタロウが取り残される事になったのだった…。
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