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終話
「何度生まれ変わっても同じ人を好きになる」という事が
「真っ暗な夜の海で不動の星を見つける」ような頼もしい事なのだと…
私もそう感じるようになった。
茉莉が去った後も色んな人に出逢ったし、これからも色んな人に出逢うのだろう。好意を持った相手もいた。
これからも誰かに好意を持っていくだろうし、いつか恋もするのだろう。
だけどまた彼女とーー
時雨と出逢うことがあれば、やっぱり私は彼女を好きになるのだと思う。
愛情を求めることがいつしか憎しみに変わるのだとしても…
私はその憎しみが愛情を求めることから発しているのだという事を見失いたくないし「絶対に見失うまい」と思うのだ。
怪談が好きで沢山の不思議な物語を語ってくれたあの人。
あの人とのあの頃の絆は、私が「人間というものに絶望せずに生きる」ために必要なものだった。
あの人が巻き戻った時間の流れに乗って無事に地球世界に戻れたのかどうか、確かめる術はない…。
サークダは「もう妻は居る。これ以上妻は要らない」と言い張って、ずっと独身でいる…。
茉莉香の名を持つヤスミンはスクスクと成長している。
女の子らしく「恋物語」にも興味を持っているようだ。
ラーヘル辺境伯の側近には、女性にだらしなくて妻を何人も持っている者が多い。
そんな中で何故サークダだけがあんなにストイックなのか…
いつかヤスミンに話してやろうと思う。
何故マータールの中に幾人もの人間の魂が入っているのか。
何故私が子供の頃に「早く大人になりたい」と思っていたのか。
いつか話してやろうと思う…。
前世でも今世でも、好きだった人の運命の岐路に立ち会えなかったことは悲しいし悔しいのだけど。
私は根本的な意味で子供だったと思う…。
多くの参入者が【地球世界】を退会する際には「カルマ清算の為の生」という名の過酷な生を送る。
「人生の中の凡ゆるものから袋叩きにされて絶望の中で死ぬ」
という体験を経るのだ。
私は【視聴者】と呼ばれる存在と親和性が高かったので、そうした袋叩きを免れて退会できたのだけど…。
それは自分を魂レベルで「背伸びした子供」にしていた気がする。
お行儀良く、品行方正に振る舞い、【世界】が仕掛ける様々な罠を回避して無難に生きた。
それは「悲惨な運命を回避する」という意味では間違いではなかったのだけど…
それは余りにも臆病だった。
本当は痛い目に遭う経験も必要だったのだと思う。
それなのに私は痛い目に遭う経験から逃げた。
「自分の体験の中から自ら掴んだ悟り」を持たずに…
「初めから教えられた正解」をただインストールされて、子供なのに大人のフリをしていた。
そんな「優等生の子供」の姿が魂レベルでの私の本当の姿だった…。
それが自覚できた現在は
「辛い経験もちゃんと味わっていく」つもりでいる…。
今日成人式を終えたのだけどーー
私は「ゆっくりと大人になりたい」と思うのだ…。
「ちゃんと成長したい」と
今はそう思うのだ…。
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