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闇の八咫烏--001日目
兎角、この世は、表と裏。光があれば影もある。知ってる、知ってるは、どなたのお話。おっさん、おっさん、朝でっせ。闇夜の鴉は、見えにくい。阿呆ぉ~阿呆ぉ~と鳴いてます。隠れて、動いて、ひそひそ話。化かし、化かされ、馬鹿を見る。闇に隠れて、南無阿弥陀仏。口外法度のお話で御座います。語り部を務めますは、悟空と申します。時空を行き来して嬉しんでおります。それではご開帳、お代は結構。ああ、生きててくれればのことですが。
ここは、京都・山科・小栗栖付近の山奥。馬に跨る立派な出立のお侍。護衛ふたりに、十三騎の伴と共にとぼとぼと。漆黒の闇と冷たく激しい雨が行く手を阻みます。主君を見限り、討ったはいいが、追われ追われて、山道を俯いて歩いておりました。
ガサガサガサ。雨音混じりに何やら殺気を感じます。枝葉が、大きく揺れる。そこに現れしは、なんと落ち武者狩り。あれよあれよと囲まれた。
「死にたくなかったら、身ぐるみ脱いで、立ち去れー」
野猿のような男が、ほざいてます。野猿の正体は、土民(百姓)の中村長兵衛。雇われれば戦に、職に溢れりゃ落ち武者狩り。傷つき逃げる侍を、待ち伏せお命頂戴。鎧や刀を奪って、売っている。運がよければ、武将の首は、高値で売れる。そんな輩で御座います。
「無礼者。そなたら、この方をどなたと心得るか。明智光秀様なるぞ」
「明智だって、おめぇら、知ってるか」
「知らねーや、おらたちに、武将の名前なんて聞かせたって、無駄だ無駄」
「そうだ、そうだ、おらたちは、口入れ屋役の侍にしか知んねーだ」
「この方は、今や飛ぶ鳥を落とす、織田信長をお討ちになったお方だ」
「えっ、あの信長様をか」
「そうだ、われら、先を急ぐ、そこをのけーぇ、のけーぇ」
蜘蛛の子散らして、一目散。落ち武者狩りも人の子よ。恫喝一発、本気で人斬り包丁を振り回されては堪ったもんじゃねぇ、てね。
「危のう、御座ったな、光秀様」
「ああ、先を急ごう、いつ舞い戻って来るやも知れん」
「そう致しましょう。一同、急ぐぞ」
長兵衛ら落ち武者狩りたち。ああ、勿体無い、勿体無い。諦めの悪さは、悪人の本望。このままで済むはずもなく…。
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