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闇の八咫烏--002日目
「驚いたなぁ」
「あぁ、あ奴が信長様を討った奴とわなぁ」
「知らねぇって咄嗟に言ったけどよ、腰が抜けそうだったぜ」
「でもよう、後ろにいた奴ら、誰も駆けつけてこなかったな」
「ああ、おかしいぜ、何かが」
「きっと、でまかせだぜ。そう言えば、俺らが腰抜かすって思ったんじゃねぇか」
「そうだ、きっと、俺ら、いっぱい食ったんだぜ…畜生」
無謀に飛び出し、引き下がり。それでも諦め、消え去らぬ。それでも、抜け目のない長兵衛たち。
「勘太の奴、ちゃんと後、つけてんのか」
「もう、真っ暗だ、休み休みか、どっかで休むに決まっている」
「いまからでも遅くねぇ、追いかけて、やっちまおうぜ」
落ち武者狩りの勘太が残した道標。それを頼りに、ひたすらこっさ。明智一行、先を急ぐも、行く手を阻むは、豪雨と闇。
「もう、追ってきまい、闇夜は危ない。心して参ろう」
長兵衛は、掌を重ね獣の真似をし、勘太に連絡を取った。返事はすぐに。
「近いぞ、慎重に行くぜ」
度肝を抜かれて、肝座る。狙うは、高値で売れそうな武装品。
「何やら、獣がおりそうな、夜分、動くは危険やも知れませぬな」
「しかし、先を急がねば」
襲い掛かる三重苦。ぬかるんだ足元、闇、豪雨。それでも先を急ぎます。敗戦の悲壮感、疲れ果て。身も心もズタズタに。その時でした。谷側から男が飛び出し、馬上の武士の右脇腹をぶぎゅっと一刺し。「うぐぅ」と刺された武士は、鈍い呻き声をあげ、落馬した。
「光秀様~」その声は、山合にひと際、大きく響き渡る。これは大変なことに違いない。浮き足立った武士たちは、光秀の元へ怒涛の如く駆け寄った。「こりゃ、堪ったもんじゃねぇ」と長兵衛たちは、悲鳴を上げながら谷側を転げ落ちるように逃げ去って行く。
直様、護衛に付いていた溝尾茂朝と木崎新右衛門。茂朝は、光秀の元に駆け寄り、新右衛門は、駆け寄る武士たちの進路を妨げるのに必死。進路を絶たれた武士たちは、「光秀様に何が御座った」と口々に新右衛門に詰め寄った。
「何事もない。戻りなされー。馬が、ぬかるみに脚を取られただけじゃ、心配は要らぬ、隊列を乱すでない、さぁ、戻りなされよ」
と新右衛門。不安を抱えつつも兵たちは新右衛門に従った。腹心の家臣に光秀から遠ざけるため、人の壁を作らせた。一方、茂朝は、光秀の様態が心配で心配で。「このままでは、不安を煽り、動揺が広がりまする。我ら三人の代わりを仕立て、隊を進ませましょう」と新右衛門。「それでは、光秀様が…」と不安を抱く茂朝。その場を察し、「心配は要らぬ、指示に、従ってくれ、選択の余地はない、ことは…急ぐ」と光秀は、声を振り絞った。茂朝は、光秀の指示に尋常ではない危機感を察し、従ったのです。
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