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闇の八咫烏--006日目
駆けつけた武士たちは、三左衛門の手元を見て、びっくり。土と血に塗れた首級。首のない胴体と二人の亡骸。斎藤利三は、愕然とし、その場に座り込み、拳を膝に当てつけた。
斎藤利三(さいとう としみつ)は後の春日局の父であり明智家の重臣。
「茂朝殿、新右衛門殿」。悲哀の声とは裏腹に、顔は見る見る般若のように怒りを帯び始めた。その矛先は小島三右衛門らに向けられた。「きさまら、そこに直れ、叩き斬ってやるわ」と利三は刀を抜いた。
これには三右衛門らは腰を抜かすように後ろへと仰け反った。そらそうでしょう。長兵衛らの話に危うさを感じてやってきたのにその危うさがいま、自分たちに向けられている、これは堪ったもんじゃありません。直様、三右衛門は仰け反った姿勢を立て直し「お・お・お待ちくだされ、お侍様」と、ありったけの声を振り絞り、手を合わせて懇願した。
興奮していたとは言え利三は、単なる命乞いではないただならぬものを感じ、ふと我を取り戻すと振りかざした刀を上段で止めたので御座います。
利三の動きが止まるやいなや間髪を容れずに三左衛門は、必死な形相で語り始めた。事の次第を把握した利三は気持ちを抑え、殿の仇を討つことに怒りの矛先を変えたのです。
利三ら数名は、三左衛門の案内で輩たちの住処へと急いだ。小屋の中の様子を窺うと7~8人のやさぐれた男たちが、就寝中だった。利三にひとつの疑問が浮かんだ。このような者に光秀様が討たれたのか?そんな馬鹿な…。ここは確かめることに致すか。そこで利三は、長老の三左衛門に、酒と旅人の着衣を用意させ着替え終えると酒を携えてトントンと小屋の扉を叩いた。
「お邪魔しますぜ」
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