闇の八咫烏--008日目

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闇の八咫烏--008日目

 おっと、お待ちくだされ、何か変じゃぁ御座いやせんか。そもそも、意気消沈の折に追い打ちを掛けるような出来事。利三が三右衛門たちと出くわした際、常軌を逸していたはず。ならば問答無用でバサリ、と一刀両断。なのに思い止まった。更には、確認と称して刀狩りをした者のあじとへと乗り込み、機嫌まで取って詳細を聞くなど、興奮状態なのか冷静なのか。何やら、歳三の行動には合点が行かないのは私だけでしょうかねぇ。何やら裏がありそうで。  まぁ、それは先を見れば分かってきましょう。さて、利三は、刀狩りの輩を成敗した後、三左衛門に村人数人と荷車を三台用意させ、光秀と思われる亡骸の元へと急ぎ、戻りやした。亡骸をそれぞれ荷台に載せて改めて、利三は思ったそうな。不本意にも土民ごときに討たれた光秀の無念。亡骸の置かれた状況から、光秀と護衛のやり取りが利三には、手に取るように分かったそうな。自害を手助けし、介錯した護衛の者の気持ち。首級が見つかっても、秀光と分からぬように、顔の皮を剥いだ時の気持ち。さぞかし、無念だったろう、そう思うと五臓六腑が抉られるような苦渋に胸を焦がしていたのに違いやせん。  それは、亡骸を荷車に載せさせる際、利三が膝を付き頭を垂れ、突いた両手で土を地面から剥ぎ取るが如く握り締めていた様が物語っております。  さて、作業が一通り終えた後、利三は魂が抜かれたような悲しい面持ちで三左衛門に「手間を掛けさせたな、これを」と懐にあった金数の全てを渡しやした。三左衛門は「勿体無い」とそれを拒みやした。受け取る受け取らないの押し問答は埒が明かず。そこで利三は「そうか」と身を引いた。作業が終えた後、村人の一人を呼び止め「これ、三左衛門の忘れ物だ、村に帰ってから渡すが良い。良いか村に帰ってからだぞ」と念を押して、金数を託したので御座います。村に帰った三左衛門は、村人から手渡された金数を握り締め、利三の配慮に感謝し、亡骸を運んでいるであろう方向に手を合わせておりました。その思いが届いたのでしょうか、利三はあることを決意したので御座います。  
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