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「 は?! ちょっ…
何言ってんのあんたっ!?」
「アミの為に色々頑張ったけど、もうこれ以上やったってアミと俺は離れ離れになってしまうよ?だから一緒に天国に行くんだ…
卒業なんて待たなくていい!
あの世に行けば、今すぐだって結婚できるんだからっ!!」
ギトリと脂汗でてかった顔を歪ませながらズリっとアミへにじり寄る。
「…っ!く…、狂ってるっ…!
変態!変態教師っ!!お前が一人で行けよっ!!
ね、ねぇ、海星君!助けて?
こいつやっちゃってよ!
あ、け…警察に! 」
佳乃はこの光景を唖然と見ているしか出来なかった。
佳乃の中の情報では、この人はエレナとアミの部の顧問であり、エレナが信頼を寄せていた、いや、あの口ぶりでは好意を抱いていた、それくらいの存在でしかなかったのだから。
海星は視線を先生に固定したまま、アミの言動を左に受け流し、この場を切り抜ける隙とタイミングをじっと計っていた。
少しずつ、けれど確実に距離を縮めつつ、相手を刺激しないように、努めて冷静さを保とうとしている。
「アミ、もうそんな芝居しなくていいんだ、
俺をなんとか逃がそうとしてくれてるのはわかってる…!
でも、アミがいないなら一人で逃げても意味がないんだよ。
ほら… おいで 」
爛々と目を輝かせて、目の前に立ちはだかる置物だらけの飾り棚に足をかけた。
「やっ、来ないでよっ…!」
落とされた置物が床に転がったり割れたりして、鈍い音やらカラコロした場違いな間抜けな音まで賑やかにその場に響いた。
その腰ほどの棚に片膝が乗り、ライターらしきものを握り込んだままの拳がまた新たに置物を山を崩した。
「きゃあぁーーーーっっ!!!」
棚に膝立ちになり、先生が見上げる高さになると、その圧迫感と不気味さに恐怖でパニックとなったアミが佳乃の眼の前で腰を抜かした。
佳乃は自身も震えて使い物にならなそうな膝をなんとか踏ん張って、ただ叫び声を上げまくるアミの襟首を力づくで引きずり、カウンター出口の方へずらす。
「 アミ…、アミ…、アミ…っ 」
アミ一点に視線を固定しながら片膝を持ち上げる。
そこからカウンタ内に飛び降りる為にバランスを取ろうと、瓶を握った右手が彼の足元まで下げられた。
その時だ。
まるでピンと張って狙いを定めて弾かれた弓矢のように、海星が素早く先生の足元まで一足に距離を詰め、その手から瓶をガシリと奪い取った。
「っあっ…!」
反応出来たときには既に瓶は海星の大きな手の中へと収められていて、咄嗟のことに対処できなかった男のほんの一瞬の間は、海星が次の一手に出るのには十分な隙であった。
すかさず眼の前の男に踏み荒らされた棚から垂れ下る物を掴み、それを力の限り思い切り引き抜いた。
「 っっっうわあっ!!!!!!」
「きゃあぁぁっ!!!!」
それは棚の色と同じ様な目立たない赤茶の布だった。
先生は思い切り体勢を崩し、一瞬宙に浮いた体は飾り棚の縁に強かに打ち付けられ、その勢いのまま狭い隙間側へ鈍い音と共に落下した。
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