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「海星君は? ちゃんと休めてる?」
変わったのはマスモト親子だけではない。
海星もまたその一人で、今 彼は某人気珈琲チェーン店でアルバイトをしながら、飲食店について学んでいる。
なんとそのチェーン店を経営しているのはゴローさんの会社らしい…
恐るべしゴローさんだ。
「ああ、心配すんな。
それよりお前はどうなんだ?
お前の叔父さんからまだ連絡無いのか?」
「あ! っそう!!それなの!
そうちゃんからやっっと連絡が来たのよ!」
2日前に、ずっと音信不通だった創太郎からメールが届いたのだ。
"元気か〜" と、何とも神経を逆撫でする切り出しで始まった短い文章には、"報連相"の"報"の部分だけで、肝心の連絡、相談がまるで書かれていない。
「思ったより学校を建てるのに時間がかかるからまだ帰れないんだって。
だから店は私に任せるとかまた無責任な事言ってるんだから!」
長年の勘みたいな物で、実は結構最初の頃から"しばらく帰って来ないのでは"とは感じていた。
そもそも約束の3ヶ月はとうに過ぎている。
「ふっ、顔にやけてるぞ 」
海星がからかう様に口角を上げた。
「えっ、うそ!にやけてないよ、怒ってるんだよ、相変わらず勝手なんだから! 」
佳乃の言葉通りには受け取っていないらしく、特に取り合ってくれる様子はない。
確かに、このままアンカサを継続することに関して文句は無い。むしろ楽しくなって来ている今、突然お役御免となる方が辛いのだ。
怒っているのは創太郎の行動そのものに対してであって、それもまぁ今更と言えば今更だが、取り敢えず文句は言っておかなければという気持ちなるのは致し方ないと思う。
「ま、いいんじゃねぇの?
お前があそこに居るのがもう普通だし、お前の珈琲楽しみにしてる客もいるだろ」
「そうだと嬉しいな…」
「まぁ…、俺も飯食う場所無くなったら困るし」
「海星君にとっては食堂だね。
でも、お口に合ってるなら嬉しいよ。
私も…、料理作る時、海星君好きかなー?って…、考えながら作ってるし… 」
何となくそれが習慣になっていて、無意識に海星の好みに寄せてメニュー開発をしている事に気付いてハッとしたのは最近だ。
軽く告白してるような気恥ずかしさにもじもじとしながら柵で頬杖をついて、何処ともなく遠くを見た。
頬を包む自分の手が冷たくて、少し熱を持った顔の温度とじんわり混ざり合う。
チラと横目で隣をうかがうと、腕組みしながらガッツリ佳乃を見ていた海星と目があった。
「な、なにっ?」
ぎょっとして心拍数が跳ね上がる。
「 顔赤い 」
「っうぇ?! さっ、寒いからね!」
「ふーん… 」
手の平を擦り合わせて寒さをアピールしていると、ノーガードだった耳の輪郭を長い指がするりと撫でた。
「ひぎゃ! っなななななっ!!」
完全な不意打ちに慌てふためく佳乃に、ゆっくりとかがんで目線の高さを合わせる。
「 耳熱いけど 」
「かっ!!海星君の手が冷え切ってるんじゃないっ?!
あ!わっ、私ストール持ってきたのっ!
…ほらっ! これ使ってね!」
ガッサゴソと足元に置いたトートバッグを漁って大判だけど薄めのストールを引っ張り出した。
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