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「ほらほら、冷えるからね!これ掛けて」
この場の雰囲気を何とか誤魔化そうと、必要以上にストールを勧めながらバサリと海星の肩に被せてやる。
"よしっ、この話は終わり"と言うように、さっさと夜景に目を移して小さく息をついた。
役目は終了と油断した佳乃の横で、ふわっと嗅ぎ慣れた柔軟剤の香りが舞う。
確認する間も無く大きな腕とあたたかい布にすっぽりと包まれ、ぎゅうっと締められた二の腕に驚いて視線を落とす。
肩に載せられた重みに小さく首をすくめると、逆に近付いた海星の頬が首筋に擦れて一気に心臓が飛び跳ねた。
咄嗟に息を止めて固まっていると、喉元に海星の唇の動きを感じた。
「お前の方が寒いだろ。
体冷えてる… 」
「え…、 ん… そう…かな…?」
目下、寒いとかどうとかの次元では無い心境というのはバレているだろうか?
全身が心臓みたいになっているのだ。
こんな密着状態なら伝わらない筈が無い…。
「あ…の… 」
「 早く自立するから…。
早く一人前になって、お前の事ちゃんと養える様にするから
もうちょっとだけ待っとけ。」
「え…、そ…れは、どう言う… 」
「だから、心配しないで俺の側にいればいいって事 」
「う…ん…、それはつまり…?」
「お前…、なんでわかんない訳…?
空気読めよ、俺が嫌いな奴にこんな事すると思うか?」
離された顔に呆れた色が滲む。
呆れられてるのに、そんな表情が逆に胸を満たしていくのが不思議だ。
「嫌いじゃないなら?」
海星の腕の中で少し体をひねって視線を合わせてみる。
夜景に淡く照らされた顔は、夜闇の中でもとてもきれいで、男性であるのにその造形は"美しい"と表現するのがしっくりくる。
自分でも調子に乗って少し意地悪な言葉を返してみたくせに、いざ目を合わせるときれいすぎて見惚れるなんてまぬけな事をしてしまった。
佳乃のぽかんと見上げた顔にふっと小さく笑みを溢すと、軽く背中を抱いていた大きな手が、滑らかな佳乃の小さな頭をなぞった。
「 好きだよ 」
「えっ!!」
少しぶっきらぼうでとても短い、それでいて今までに無い程甘い。
「 佳乃 」
「えっ! な…、なま…!」
初めて自分の名を呼ぶその声は静かで優しい。
後頭部を包み込むように支える指が、柔らかな髪と首筋の質感を確かめる様に一撫でする。
海星の顔がだんだんと近くなって、まぶたにあたる吐息に耳まで一気に熱くなるのを感じた。
「 佳乃… 」
「はいっ!」
「 うるさい 」
「んっ…!」
声が出る前に唇を塞がれ目を見開く。
ニ、三度まばたきしている間に重ねられた海星の唇が佳乃のそれを軽くはむと、襟足を支える手に軽く力がこもった。
浅く唇で挟まれた下唇にスッと舌先が触れるのを感じてゾクリと体が痺れる。
ぎゅっと海星の袖を掴むと、一気に深くなる口づけにもう何も考えられなくなった。
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