キング・フロッグの憂鬱

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「キング・フロッグ、よければワシが話を聞こう」  このナマズはもう何百年も生きていて、森の中では一番の知恵者と評判でした。キング・フロッグはナマズに打ち明けることに決めました。 「私はいつも心配していなければならないのです」 「なにをだね」 「この王冠のことです」 「ふむ、たいそう立派に見えるがね」 「そう、そうなのです。確かに私の王冠ほど立派なものは、そうはないでしょう。だから、いつかこの王冠を盗みに来るものがいるかもしれない。それが心配で、私は夜も眠れないほど不安なのです」 「ほほう、それは心配だな」  ナマズはもっともらしくひげを動かし、うなずきました。 「だが、王冠がなければ、よけいな重荷も減るというもの。生きやすくなるのではないかな」  キング・フロッグは、ナマズの言葉を聞くと、驚いて岩の上で飛び上がりました。 「とんでもない。王冠がなくては生きている意味などない」  それから、呆れたように顔を背けると、ナマズを横目に見やりながら、 「貴方はこの森で一番の賢者と言われているが、そうでもないらしい」  ナマズの濁った目がギョロリと動きました。そして長いひげを沼の水面に遊ばせながら、 「キング・フロッグ、ワシは思うのだがね、どうやらこの沼は君には小さすぎるようだ」  それを聞くと、キング・フロッグはパッと大きく目を見開き、 「そう、そうなのです。確かにこの沼は小さい。私ほど立派な王冠をかぶったものに、こんな小さな沼はふさわしくない」  キング・フロッグは興奮したように、水かきのある両手で自分の膝をぴしぴしと叩きました。 「では、どうかね。この森をぬければ、城がある。城は人間の王様が住んでいるが、そこには素晴らしい池がある。池といってもそれはまるで湖ほどの広さがあり、朝は日の光にダイヤモンドのように輝き、夜は星の瞬きをうつしてサファイやのしとねのようにさざめく。そこを君の城にしてはどうかね」 「なんですって、それは素晴らしいアイデアだ。やはりあなたは世界で最も賢いナマズだ」  キング・フロッグは急いで立ち上がり、早速城の池を目指して飛び出しました。  キング・フロッグが大喜びで去っていく後ろ姿を、黙ってじっと見つめていたナマズは、やがてまたぼこぼこと大きな泡を立てながら、沼の底に潜っていきました。
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