43人が本棚に入れています
本棚に追加
「キング・フロッグ、よければワシが話を聞こう」
このナマズはもう何百年も生きていて、森の中では一番の知恵者と評判でした。キング・フロッグはナマズに打ち明けることに決めました。
「私はいつも心配していなければならないのです」
「なにをだね」
「この王冠のことです」
「ふむ、たいそう立派に見えるがね」
「そう、そうなのです。確かに私の王冠ほど立派なものは、そうはないでしょう。だから、いつかこの王冠を盗みに来るものがいるかもしれない。それが心配で、私は夜も眠れないほど不安なのです」
「ほほう、それは心配だな」
ナマズはもっともらしくひげを動かし、うなずきました。
「だが、王冠がなければ、よけいな重荷も減るというもの。生きやすくなるのではないかな」
キング・フロッグは、ナマズの言葉を聞くと、驚いて岩の上で飛び上がりました。
「とんでもない。王冠がなくては生きている意味などない」
それから、呆れたように顔を背けると、ナマズを横目に見やりながら、
「貴方はこの森で一番の賢者と言われているが、そうでもないらしい」
ナマズの濁った目がギョロリと動きました。そして長いひげを沼の水面に遊ばせながら、
「キング・フロッグ、ワシは思うのだがね、どうやらこの沼は君には小さすぎるようだ」
それを聞くと、キング・フロッグはパッと大きく目を見開き、
「そう、そうなのです。確かにこの沼は小さい。私ほど立派な王冠をかぶったものに、こんな小さな沼はふさわしくない」
キング・フロッグは興奮したように、水かきのある両手で自分の膝をぴしぴしと叩きました。
「では、どうかね。この森をぬければ、城がある。城は人間の王様が住んでいるが、そこには素晴らしい池がある。池といってもそれはまるで湖ほどの広さがあり、朝は日の光にダイヤモンドのように輝き、夜は星の瞬きをうつしてサファイやのしとねのようにさざめく。そこを君の城にしてはどうかね」
「なんですって、それは素晴らしいアイデアだ。やはりあなたは世界で最も賢いナマズだ」
キング・フロッグは急いで立ち上がり、早速城の池を目指して飛び出しました。
キング・フロッグが大喜びで去っていく後ろ姿を、黙ってじっと見つめていたナマズは、やがてまたぼこぼこと大きな泡を立てながら、沼の底に潜っていきました。
最初のコメントを投稿しよう!