キング・フロッグの憂鬱

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 キング・フロッグは意気揚々と城を目指して進みました。飛び跳ねるたびに王冠がずり落ちそうになるので、キング・フロッグは王冠を片手でしっかりとおさえながら、慎重に進まなければなりませんでした。  蝶や小鳥たちが、そんなキング・フロッグを見て、くすくすと笑いながら、からかうようにまわりを飛んでも気にしませんでした。  そして西の空に、沈みかけたトパーズ色の太陽が見える頃、キング・フロッグはやっと城の池に到着しました。  キング・フロッグはずいぶん飛び跳ね続けていましたから、すっかり疲れきっていましたが、まるでギリシア神話に出てくる神々の庭のように清らかで、美しさに満ち溢れた池を見た途端、疲れは跡形もなく消えてしまいました。  周りを生い茂った深い緑の草が取り囲み、燃えるような西日を受けて、池はそのまま太陽をうつして巨大なトパーズに変わったかのように、神々しく光り輝いていました。  池の真ん中にはふかふかと心地良さそうな大きなハスの葉が、ゆったりと体を広げ、キング・フロッグが泳いでくるのを待っているようでした。 「なんと素晴らしい。まるであのナマズの言った通りだ」  キング・フロッグは、やっと自分にふさわしい城が見つかったことに満足し、ゆっくりと池に向かって飛び跳ねました。  ところがもうあと一歩というところで、美しい池に気を取られていたキング・フロッグの片手から、王冠がするりと抜けて、地面に転がり落ちてしまいました。  慌てて王冠を取りに戻ろうとしたとき、ベルのような音が頭上に鳴り響き、大きな影がキング・フロッグの体をおおいました。  見上げると、美しい翡翠の飾りのついた首輪をかけた、重そうな体のペルシア猫が、ほんのすぐ目の前に立って、じっとキング・フロッグを見下ろしていました。  キング・フロッグがあっと思う間もなく、信じられない素早さで、猫はキング・フロッグをペロリと一口に飲み込んでしまいました。  猫は何食わぬ顔で、後ろ足で自分の頭を掻いていましたが、猫を呼ぶ王妃の声が聞こえると、大きなのびをして、それから悠然とした足取りで、城の方に向かって歩き出しました。    さて、飲み込まれたキング・フロッグは、猫が動くたびにお腹の中でぐらぐら揺られながら、だらりと投げ出した足の間に両手を挟み、大きなため息をついて言いました。 「私の王冠、誰かに盗まれてはいないだろうか」  燃え上がるように美しい池の片隅には、もうかぶるもののいなくなった王冠が、泥にまみれて西日にさらされ、ぽつんと小さな影を作っていました。  END ※最後まで読んで頂きありがとうございました。次のページもあります。
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