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「ほら、早く早く」
ぼくの横ににじりよって、肩をゆする。
つつみを丁寧にはがしてふたを開けたら、クッキーカップにつめられたチョコがたくさんならんでいた。
いろんな模様がおどってる。うずまきやくにゃくにゃの線、ホワイトチョコで点々がちりばめられていたり。かわいいネコの顔のもあれば、怒ったクマがいたり。
ハートに囲まれたサトくんの文字にはてれてしまって、ついつい目をとじた。
「これね、新作なんだよ。はい、あーん」
つまんでぼくの口に放りこむ。小さなころから、こうやって食べさせてくれる。
ミコちゃんの中では、ぼくっていつまで経っても、小さな子供なんだろうな。
「マシュマロが入ってるの。おいしい?」
うんうん。もぐもぐしながらうなずいていると、ちょっと涙が出そうになった。
とってもおいしい。こんなにおいしいんだから、きっとミコちゃんだって、食べたいはずなんだ。
だけど、神さまとの約束を守ってがまんしてる。ぼくのためにしたお願いなのに。
そんなぼくのようすに気がついたのか、ミコちゃんはほっぺをうす桃色にしてうつむいた。パラパラパラと流れていく髪が光の膜みたいで、とてもきれいだ。
「この前は怒ってごめんね。はずかしかったの。わたしのお願いを知られたのが」
ゆれる髪の先を見ていると、チョコがしょっぱくなってきた。
「ぼくこそ、ごめん。ぼくのせいで、お菓子食べられないもんね」
「そんなこと、気にしてたの? ずいぶん大人になっちゃって」
キュッとぼくの鼻を押す。
「ちっとも辛くなんかないよ」
ふふっと小さく笑って、はずむように立ちあがった。
頭と腰に手をそえて、はいポーズ。くねっと体をひねる。ひっついたまま、くの字に曲がった膝がかわいい。
「サトくんが生まれてきてくれたおかげで、わたしはこーんなにスマートなんだから」
いたずらっぽく横に伸びたくちびるからは、まっ白な歯がのぞいていた。
「ありがとね、サトくん」
ぼくはミコちゃんが大好きだ。
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