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初詣
予備校の直前集中講座が始まって、朝の9時から夜の9時までみっちり。文字通り勉強漬けで、年を送る感慨も新年を迎えた実感もないまま3日の朝が来た。
4日からはまた集中講座があるから、3日はほんとにほっと息つくだけのたった一日の休日。
先生との待ち合わせは11時。先生の家の最寄り駅の改札通ったところで。
どうせ行くなら合格祈願でご利益がありそうなところがいいと思って、いくつか探した中から一番近くて、小さそうなところを選んだ。
先生は人混みがキライって言ってたし、その神社は街中にある、知る人ぞ知る穴場的なとこで、名前が知られてるような由緒正しい神社じゃないからきっと大丈夫と思って。
5分前には到着した方がいいよな……じゃあ5分前にゆとりを持って10分前に着くようにしよう……
あ、でも先生も早く来てるかも。先生よりは先に着いてなくちゃ。
ってことは先生が5分前に来るとして、その5分前で、ゆとりを持ってさらに5分前で……あ、でも正月ともなると何が起こるか……もう少しゆとりを持って……
ぐるぐる考えた挙句、俺は改札の内側の隅の壁にもたれ掛って20分待つことになった。
でも不思議。
待つのがちっとも苦じゃない。
参考書をチェックしながら時折顔を上げて、お目当ての顔を探すたびにずっとワクワクしてた。
だから、視野に気配を感じて目を上げた先にその顔を見つけた時は、どきんとして嬉しくて……先生と外で待ち合わせてるこの状況が不思議で、笑ってしまった。
「おーっす。明けましておめでとー」
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
そんな新年の定番の挨拶をしながらも、受験とモデルが終わったらそこまでじゃねえの、っていう自分のツッコミを聞こえないふりで抑え込む。
「じゃあ、行きましょうか。あっちの階段です」
スマホ片手に調べた行き方を再確認して、俺は先生を先導して歩いた。
「お前電車でよく出かけんの?」
「そうですね。車と半々くらいでしょうか」
「へー。ガッコー行く時以外は全部あのゴツイ車かと思った」
「市内はどこも混むので、買い物やなんかで友達と出かける時は結構電車も使いますよ」
今日の先生は、カーキのミリタリー風ジャケットにジーパン、スニーカーってスタイル。いつもスエット姿ばっかり見るから新鮮で、やっぱりどきどきした。
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