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目的の駅で降りて改札を出たところでスマホを取り出して位置を確認。そちらの方向に歩き始めたら、途中でスマホは要らなくなった。
なんでって、明らかに初詣客って分かる人がたくさん同じ方向に向かって歩いてたから。
「うわ~……結構いますね。ここ、穴場的に書かれてたから空いてると思ったんですけど……」
「なあ……お前が行こうとしてるのってもしかして菅原神社?」
「あ、はい。ご存知ですか?」
「うん。この辺によく来てたの、一時。友達が住んでてさ」
少し懐かしそうに辺りをきょろきょろする先生と肩を並べて歩きながら、俺はというと長い参道の脇に並んだ露店に目を奪われてる。
辺りに立ち込める甘い匂いはベビーカステラ。
ソースの香りが食欲をそそるお好み焼き、焼きそば。
りんごあめ、と書かれたテントの下に並んだ、ツヤツヤと赤い飴…
もちポテトってなんだ……もちの中にジャガイモが入ってんのかな……うわーどんなんだよそれ……
ぼんやり考えてたら急に隣の先生が笑いだして「お前、ほんっと食いしん坊な」って……
「普段イイモン食ってんのに、こういうのにも惹かれんの?」
「あんまり食べたことがないからかえって気になるんですっ」
「ふーん。じゃあ好きなだけ食えよ。買ってやろうか、士央クン」
「いいです!」
揶揄うような目つきをする先生に言い切って、俺は大股でずんずん歩き出した。ちょっと食べてみたいな、と思ってただけに図星が余計に恥ずかしい。
俺、そんな食いしん坊かな……
いくらか進んでから振り返ると、先生は慌てた様子もなくジャケットのポケットに両手を突っ込んでぶらぶらこっちに歩いてくる。
いっつも余裕で、なんか悔しい。けど……カッコイイ……
先生が追いつくのを待ってまた並んで歩きだしたら、先生が「帰りになんか食ってこ」って……今度は優しい顔で笑った。
俺はまたまた胸がどきっとして、その優しさにつられるようにはい、と返事をした。
朱色の古びた鳥居をくぐり、今は幹と枝ばかりの桜のトンネルの下を本殿へと歩いて、でもあと5メートルってとこで参拝客が溜まって行列は詰まり、賽銭箱に近づけなくなる。
「うはーすっげぇ人……」
「これ、動いてるんですかね」
横からも後ろからも押されて先生とぎゅうぎゅうくっついて、俺はいつもよりうんと近い顔にびっくりして顔を背けた。
その強くはっきりとした鼓動が、どこかから聞こえてくるお神楽の拍子と重なった。
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