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ギュウギュウ押しくらまんじゅう状態で10分くらい。いや実際のとこ時間はよく分かんなかったけど、賽銭箱の前まで来た俺は後ろから更に押されながら財布を取りだし、お賽銭を入れた。
二拝二拍手一拝とかって言ってる場合じゃないくらい、慌ただしくお参りを済ませて早々に本殿の前から退避!
退避って言い方がぴったりなの。たった10分か15分のことだったのに、へとへとになったから。
俺も先生も人の少ない端っこの方へ逃げてきて、呆然と顔を見合わせて……そしたら先生が、はっはっはって急に笑い出してさ。
「いやあ~……すげぇ!なんなのあれ!揉みくちゃってああいうのを言うんだよな!」
「はい……もう何が何だか……あっ!!合格祈願すんの忘れた!!」
俺がガーンって先生に目をやったら、先生は余計にひーひー笑って「お前、何しに来たんだよ」って……いや、確かに「合格祈願も兼ねてこの神社にしたんです」って言ったけど……
「いいよ、こっからパンパンってやっとけ」
「あーもうほんと何やってんだろ……神様すみません」
俺は本殿から離れた鎮守の森との境目からもう一度頭を下げ、手を叩いて合格!と念じた。
先生に認めて貰いたいっていう子供っぽい動機で動き出した俺は、いつの間にやら本気で合格したくなってて。
まだ夢は見つからないけど、先生に……俺が名の通った大学の学生になった姿を見せたいっていうか。
そしたらなんか先生に、一歩近づける気がして。大学生は、大人だろ。多分、今の俺よりずっと……
「さー屋台に寄ってさっさと帰ろ」
先生がそう言ってゆっくり鳥居の方へと戻り始めたら、前方から大股で近づいてきた男の人が「保じゃ~ん!」と笑顔で近づいてきた。
「ひっさしぶり~!あけおめことよろ~!何、お前初詣なんて来んの?つーかなんでここに?ん??」
最後のん?で俺の姿を認めた先生の知り合いらしき人は、「え?お前趣味変わった?」って不思議そうな顔で先生に視線を戻した。
「そーゆーんじゃねえの。前、家庭教師してた子」
「家庭教師!?ぶははははは!お前が家庭教師!!似合わね~!!」
やたら声の大きい人で、ばんばん、と先生の背中を叩いて爆笑してる。
「薫……うるせえよ」
先生の明らかな迷惑顔なんて屁とも思ってないみたいに、薫と呼ばれたその人は先生の肩を掴んで、愉快そうに眉を上げながらぐぐっと顔を近づけた。
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