初詣

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「お前がつまんねーウソつくから腹いてぇよ。なんだよ~盗らねえよ!言えよ、ほんとの事~!だってちょー可愛いじゃん!」 馬鹿みてーだけど、俺はこの時自分が話題に上ってるんだって全く気付いてなかった。 まず第一に、目の前の人が発した『可愛い』という言葉が自分に当てはまるとは全く思ってなかったから。 第二に……本人を目の前にしてそういう会話が成されるなんて思ってもみなかったから。 「もー、ほんとになんでもないの!こいつは受験生で合格祈願に来ただけなの!」 先生がそう発した時になってようやく、薫…さんが言ってる「趣味変わった」「盗らねえよ」「可愛いじゃん」が、俺のことを指してたんだって分かって……その意味が、やっと分かって…… ぶわって暑くなった。 息が白くなる季節だってのに、汗が出た気がした。 「わーー!真っ赤っ赤じゃん!はははは かぁ~わい~!」 薫さんは俺を見ながら豪快に笑ってて、それは見てて気持ちがいい明るさがあって……ただ、なんて返せばいいか分からないから、俺はあいまいに笑って先生の方へ少し寄った。 「せ、先生……俺、ちょっとお守り買って絵馬書いてきます……」 「ん。ここらで待ってるわ」 先生は何も気にしてないみたいに普通に微笑んで言った。 俺は薫さんに会釈をしてから小走りで、社務所の近くに設置されたお守りや破魔矢などが売られる特設テントの方へ逃げた。 先生と、俺が……つ、つまり……付き合ってるって意味で言ったんだよな?あの人…… ホモ…ってヤツ? あの言い方だと……あの人も先生もホモみたいに聞こえる……いや、先生は違うよな……?だって彼女がいたし…… ふと、イブに先生の部屋に来た女の人のことを思い出して、また胸がモヤモヤした。 「コレとコレ……それから絵馬を1つください」 朱色の袴をつけた巫女さんに言いながら、ちらりと後ろを振り返って先生と薫さんの様子を伺うと、遠目でもわかるオーバーな動きで薫さんが笑いながら先生と話をしてる。 先生を遠く感じる。 つくづく……俺は先生のことをほとんど知らないって痛感する。当たり前なんだけどさ。 なんか悶々としながら隣のテントに置かれたテーブルの上で絵馬を書き上げて、敷地の端にある絵馬掛所に絵馬を引っかける。 そして胸にいっぱいになった説明できない寂しさを振り切るように、掛けた絵馬に向かってもう一回手を合わせた。
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