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「言われませんよ」
俺は気持ち、体を離すようにして答えた。
「うっそ、ぜってぇ嘘だね!ちょー可愛いじゃーん!ね、お前さ。保のこと好きでしょ?」
あんまりあっけらかんと聞かれて、ハイ好きです、と答えそうになる。
でも、そうだこの人はホモなんだったってハッとして、ってことはそっちの意味で訊いてるんだって気づいて、
「先生のことは、尊敬してます」
そう、慎重に答えた。
薫さんみたいな感じの人って初めてで、行動が読めなくてどきどきする。
明るいし、悪い人ではないとは思うけど……
「え~、ほんと~?お前が保を見る目はぜってぇそうだと思ったけどなぁ」
「ち、違います!絶対違います!」
「ぜ・っ・た・い~~??ウソっぽいわ~」
片眉を上げたちょっと芝居がかった表情で、薫さんは俺に逃げるのを許さないって感じに強い視線を送ってくる。
「俺……ホモじゃありません。先生だってそうです……彼女が、いるし……」
「ノーンノンノンノン ホモって傷つくわ~正しくはゲイ!OK?」
「えっ……すみません」
ホモって言葉が差別的だって知らなくて、俺は薫さんに指摘されたことに驚きながらも急いで脳内情報を修正した。
「で~……保は確かにゲイじゃないけど。でもお前が思ってんのとも違うから、後で聞いてみな?」
どういう意味……?ゲイじゃないけど俺が思ってんのとも違うって……
薫さんはすっと立ち上がって俺の後ろを通り、厨房の中に入って勝手知ったる感じに換気扇をつけると、ポケットからタバコを取り出して口に咥えた。
「俺はさぁ……お前はライバルだ、と踏んでるわけ」
唇にタバコを挟んだ状態で不明瞭にそう言って、銀色に光るライターを取り出して慣れた仕草で火をつける。
なんか様になってるっつーか……作業台に尻を預けて長い脚を無造作に伸ばして、少し換気扇の方へ仰向いて煙を吐き出すのがキマってて……そうやってちょっと見惚れてたから、薫さんの言葉の意味が脳みそに到達したのはその後だった。
「ライバル!?」
「おっそ!お前、反応鈍いね~!」
薫さんは、にっと悪戯っぽい笑みを見せて、
「俺、保が好きなの。ライバルなら容赦しねぇから」
って、タバコを挟んだ指で俺をビシッと指差した。
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