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真相
「コーヒー入れたるから。座り」
シゲさんが薫さんの耳から手を放して、お尻をぽん、と叩いた。
薫さんはへ~いと気の抜けた返事をしてさっきの席にどかっと座る。
「保も、士央くんも座り。士央くんは砂糖とミルクはどうする?」
スイングドアから厨房に戻ったシゲさんは、食器棚からカップを出しながら訊いてくる。
「あ、ミルクだけ……お願いします」
普通に答えられたのは、考えずにできる返事だったから。
頭の中はさっきの、薫さんと先生の触れ合った唇の映像が幅を利かせてて、ろくすっぽ考えることもできない……
男同士でキスするの……友達がふざけてやってる所を見たことがある。
正直言って気持ち悪いだけだったし、それで当たり前だと思ってた。
けど今日……先生のキスを見てひたすら胸がどきどきしてた。気持ち悪いって、微塵も思わなかった。
そしてその次に……薫さんに腹が立った。
なんであなたが先生にキスをするのって……
考えたくない。考えたくないのに…気づけば思考がそこに戻ってる。
キスをされた時も、された後も怒りつつも狼狽えてない先生……
『なんだよ~怒るなよ。キスくらいで。俺とお前の仲だろ~?』
あれはどういうこと?もしかして先生も男の人を……?それで……二人は……
「おい、大丈夫か?そんなに衝撃だった?」
先生は俺の顔を覗き込みながら訊いてきた。
「えと……あの、先生……先生も、あの……男の人……」
先生もゲイなんですか?って訊けばいいだけなのに、先生に向かってその単語を口にする勇気が出ない。
「あ~……うん。好きになったら男も女もイケる方」
「えっ……両方ってこと、あるんですか……」
「うん。そっか。知らねえのか。バイっての。俺はバイで……ついでに言っちまえば薫とシゲさんはゲイな。もひとつおまけに、この二人は付き合ってる」
「えっ!!」
絶句して、思わず厨房の中のシゲさんを呆然と見つめた。話を聞いてたんだろう、シゲさんはコーヒーの準備をしながらこっちを見て、にこっと微笑した。
「だって……だって、薫さんが先生を好きって……!それに、キ…キスしてたじゃないですかっ」
「士央クンはおこちゃまだなぁ~ 人は一度に何人も愛せるんだよぉ~?」
薫さんが椅子に座った先生の向こう側からおどけた顔をして言うと、シゲさんが「薫……ええかげんにしとき」ってこっちを見てないのに怖さを感じる、やけに穏やかな声で言った。
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