氷漬けの心臓

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氷漬けの心臓

状況が呑み込めないでいる俺に、先生は「あれはふざけただけ」って教えてくれた。 「すぐにお前みたいなウブい感じのヤツをおちょくるんだよ。 薫もほんとやめて。コイツ免疫ないんだからさぁ」 その口調の中に、俺を除いた3人だけに通じる世界みたいなものを感じた。 当たり前だよ。だって俺は今日初対面だし、年齢もうんと離れてるし…… 「保、お前カホゴ過ぎんじゃねえの?俺が高校の時なんかバコバコヤリまくってたけどなぁ」 その言葉に息が詰まる。や、やりまく…… 「薫はほんま下品。士央くん困ってるやん。真っ赤になって、可愛いなぁ~ ……薫に、もうちょっとこんなとこが残ってたらええのになぁ。爪の垢でも煎じて飲ましたって?」 シゲさんは俺の前に土の質感のカップに入ったカフェオレを置きながら、優しく微笑んだ。なんかほんと、ほっとする人…… 「おいシゲ!どーゆーことだよっ!俺だって可愛いだろっ!」 「自分でゆうんが、もうアウトやわぁ」 「…っ保ぅ……ひでぇだろ!ひでぇんだよ!シゲのヤツ、にっこり笑って刺しやがんだよっ!」 「自業自得だろ」 「おっなんだその態度!そーゆー態度とるんならなぁ……お前のカコを士央クンに洗いざらいぶちまけてやる!」 薫さんは先生の首を絞める格好をして、大袈裟な動きで揺すぶった。 「だからこいつはそんなんじゃねえって言ってんのに!俺がガキに興味ねえの知ってんだろ!」 ──先生が松岡さんに放ったその言葉に、胸がずきんとした。 自分が一番驚く。 一体何に傷ついたのかって。 「士央クンくらい可愛かったらぐらっとくるかなって」 「対象外!!」 再び言葉に斬りつけられて、胸が痛い。 嘘だろ……信じられねえけど、信じたくねえけど…… 俺は隣の、薫さんたちと話をしてる先生をそっと見た。カモフラージュのためにカフェオレのカップを口につけながら。 横顔が……薫さんとキスしてた時の顔に重なる。 勝手に早く打ち始める、俺の心臓…… 認めざるを得ない…自分の気持ち。 俺……先生のこと…… 「シゲさん、後できつーくお灸据えといて。子どもを苛めたバツ」 「ほんまにごめんなぁ。熱~いの、据えとくわぁ」 「すーぐそうやって年上ぶるんだよな~あ~ヤダヤダ」 同じ空間に居ながらどこか別世界のような3人のやり取り。 俺の胸で、自覚した途端氷漬けにされた恋心が痛みを訴えていた。
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