合わない目

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合わない目

Side:保 「ほんま、また来てやぁ。士央くんも受験、ラストスパート頑張って」 シゲさんが店の外まで見送りに出てきてくれる。薫もその隣に腕を組んで立ち、なんかすっきりしたみてぇにニコニコしてた。 初詣で偶然会った薫がなんであんな熱心に俺を誘ったのかが、店に来て分かった。平気そうなふりしてたけど、多分シゲさんとケンカしてたんだな。 原因は知らねえけど試食に誘ったことから考えて、シゲさんも仲直りしたかったんだろう。 薫が29歳。シゲさん37歳……年の差カップルにはよくある話だけど、一見押しの強そうな薫もシゲさんの手の平でコロコロ転がされてる感じ。 三年前、二丁目のバーで知り合った頃はやんちゃしまくりだったバリタチの薫が、長い片想いの末に付き合いだしたシゲさんに合わせてネコしてるって聞いた時は、そりゃあ驚いた。 ケンカもするけど、結局は薫がベタ惚れだからなぁ…… TKOを出て線路沿いの道を駅に向かいながら、ちらっと横を歩く士央に目をやる。 どうも様子がおかしい。 明らかに元気がねえし。 薫にキスされたの見てからだから多分アレがショックだったんだろうけどさ。不可抗力だし、仕方ねえだろ?俺だって見せたかったわけじゃねえし。 「疲れたか?」 何か言ってくるかなと思って振ってみたけど「いえ、大丈夫です」って、目を合わせようとしない。 どうすりゃいいか分かんねえから結局はそれ以上一言も喋らずに駅に着いた。 ま、時間が経てば大丈夫だろ。 俺が財布からICカードを出して改札を通ると後ろで士央のスマホが鳴り出して、士央は慌てて改札を抜けて鞄を探った。 「もしもし……明けましておめでとう。……うん……いや、出てる……うん、初詣」 ふと駅の時計を見ると3時を回ってる。そんなに長居をしたつもりはなかったのに、TKOに2時間近くいたらしい。 「や、あの……実は先生も一緒でさ。先生に訊いてみねぇと……」 電話をしながらこっちを見た士央は、ほんの1秒だけ目を合わせてすぐに俯いた。なんか……今までキラキラした目で俺を見てたのに、すげー複雑。そんな、気持ち悪い? 確かにこいつはザ・常識人って感じだし、ゲイやバイの存在なんて自分には関係ない遠い世界の話って感じだったんだろ。 や、そうでもねえか。こいつの親友の瑞希は男と付き合ってんだし。 でもまぁそーはいっても目の前でチューはちょい生々し過ぎたんだろな。
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