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「先生……あの、瑞希が今JJにいるらしくて、来ないかって言ってるんですけど…」
「あ、そう?じゃあここで解散か?」
今日の所は俺といねぇ方がこいつにはいいのかなと思って言ったのに、ぱっと目を合わせたこいつはすげえ寂しそうな顔してさ。
なに。どっちなんだよ。
「先生も、あの……もしご用事がなければ一緒に……」
「ん、まぁ……用事は特にねえけど」
士央はぎこちなく微笑んでまたスマホを耳に当て、「じゃあ、今から行くわ。15分くらいで着けると思う」と話を終え、じゃあ行きましょうかと俺をわずかに振り返ってまた歩き始めた。
こうなって思い出してみると、俺の記憶の中の表情豊かなこいつの顔はそのほとんどが笑顔で。
嬉しそうな目で俺を見て、旨そうに食いもん食って、旺盛な好奇心のままに目をキラキラさせてさ。
あれが、好きなのに。
なんでそんなしょんぼりしてんだよ……
「腹……痛いんか?」
電車の出入り口扉の前に並んで立った士央に、小さい声で言った。
「や、痛くないです。大丈夫です、すみません……」
士央が慌てたように俺の方を見て、目が合うなり慌てて前を向いてほんの少し、俺から離れる。
別にこの歳になって傷つきゃしねえけどよ……
JJの最寄り駅の改札を出ると、駅前の少し広くなったとこに臨時のクレープ屋の屋台が出てて、甘い匂いが構内に漂ってきてる。
無意識にちらっと横を見た。
なんか俺、士央といる時は食べ物をみるとついコイツの顔を見ちまうの。
美味しそーって顔してんのを見てぇんだと思う。
目をきらきらさせて、唾をごくって飲むのをさ。
けど今……士央は俯きがちに、屋台を振り向くこともせずに通り過ぎた。
いや、そりゃそういう事もあるのかもしんねえよ?
ラーメン食った後だからまだ腹減ってねえのかもって考えるのが普通かもしんねえけど、なんかちらっとも屋台を見ないその様子がすげぇ違和感でさ。
「おい」
自然と手を掴んで引き留めてた。
そしたら「えっ!」って叫んだ士央が自分の手をばっと引き抜いてさ。
嫌悪感なんかは全く感じられないその顔はぱあっと赤くなって、俺に掴まれてた手を自分の胸に引き寄せてる。
「どしたの、お前。なんか変」
「すみません……ちょっとびっくりしただけです。あの、JJに急がないと……瑞希のやつ、意外とせっかちで」
困ったように笑った士央は、くるっと向きを変えてまた歩き出した。
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