「寄る」

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「失礼します」 ふいにこの店のオーナーの、瑞希が『司さん』と呼ぶ男が静かに現れた。 「あちらの4人掛けが空いたんですが、もし良かったら移動されますか?」 瑞希から「おーちゃんたちが来るよ」と聞いたオーナーが、気を利かせてくれたらしい。 瑞希とは知り合いだけど、年上の俺を立てて俺に話しかけてきたこの人……店に入って目が合った途端に互いに目線で勘づいた。 同類だって。 まぁだからって何も言わないよ?もちろん。その手のバーでもこういうタイプには話しかけない。 多分向こうも同じ。 「じゃあ、お願いします」 俺がそう返事をすると、持って来てた銀のトレーに俺たちの食いかけの皿やらカップやらを乗せ、こちらです、と席に案内してくれる。 「4人掛けとはいえ、男性4人はもしかしたら狭いかもしれません。 ご入用でしたら椅子をお持ちしますのでお声がけください」 カンッペキなスマイルってのはこういうのを言うんだろうね。まぁそこらでは見ないレベルの美形のオーナーは、互いに仲間と悟ってることを匂わせもせずに頭を下げて向こうへ行った。 テーブルの右側二席の奥に俺の、手前に瑞希の皿とカップが置いてあって、俺と瑞希はそれに合わせて席についた。 座面が割と広い椅子だから狭くは感じないけど、少し身じろげば瑞希に触れる、そんな距離。友達同士なら大丈夫だけど、親しくない間柄だと気を遣う感じになりそう。 まぁ『おーちゃん』と『しーちゃん』は週に2,3度は家で会ってるっていうし、大丈夫でしょ。 「あ、来た!」 瑞希の弾んだ声に目線の先を追いかけると、カランというカウベルの音と共に2人のお客が入って来た。 一人は俺と同じ年の頃の、眠そうな顔をした男。 もう一人は大きな二重の目が印象的な男の子。 オーナーがいらっしゃいませ、の声と共に傍に寄って、何か言いながら俺たちの方を手で柔らかく指した。 2人が同時にこっちを見る。 瑞希が、ひそひそ声で「しーちゃーん!おーちゃーん!」って小さく、一生懸命手を振ってんのがなんか可愛くて笑える。 「明けましておめでとうございます。初めまして……桜沢士央です」 近づいてきたしーちゃんは、瑞希から聞かされてた俺を確かめるように、『ああ、この人が……』って顔をしながら綺麗なお辞儀をした。 瑞希と同じでなんとなく品があるよね。立ち居振る舞いや纏う雰囲気に。さすがお坊ちゃまってとこ?
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