上手く言えない

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上手く言えない

Side:士央 店の奥に向かう瑞希について行きながら、瑞希が何を言いたいか分かってた。 だから困った。 だって……なんて言えばいいんだ…… 「しーちゃん。どしたの。おーちゃんとなんかあったの?」 大き目のグリーンに隔てられたトイレの入り口の所まで来て、瑞希がひそひそと言った。 ここだって他の客が来れば退かなきゃいけないからだろう、静かでありながら先を急がせる感じに訊いてくる瑞希に、俺は答えが決まってなくて何も言えない。 「喧嘩ってわけでも無さそうだけど……おーちゃん寂しそうな顔してたよ?」 胸がズキンとする。だめだ。先生の名前を聞いたら、もう…… でも俺自身どうしていいかわからない。 先生の笑顔は、前の俺に向けられたもの。でも俺は……もう前の俺には戻れない。 自覚した途端に加速度的に膨らんだ先生を好きな気持ちが俺の胸を占めて、なのに……先生の中には俺と同じ気持ちが育つことなんてない。 なんでって……「対象外」だから…… 自分の内側で反芻するだけで胸が苦しい。 数時間前の、先生に憧れてるだけだった、尊敬してるだけだって思ってた自分に戻りたい…… 「うまく言えねえ……瑞希……」 「そっか…うーん…えーと…でも、つまりなんかあったんだよね?」 「……うん」 瑞希はしばらく考えてなんか思いついたようにきょろきょろすると、ちょっと待ってて、と俺の肩をポンと叩いてカウンターの方へ行った。 ざわざわとさざめくようなお喋りの声と、静かに間を埋めるBGMの中に、ひとり浮いてるような俺。 瑞希にも先生にも、きっとナオさんにも、ヘンだって気ぃ遣わせちまってる…… 「しーちゃん、こっち!」 はっと目を上げれば瑞希が店の一番奥まった席の前へ行って手招いてた。 近づいてったらちょうど司さんがトレーを二つ持って来てくれて、それはさっきの俺達の食いかけのでさ。 「すみません。あの、混んで来たらすぐに退きますから」 「うんうん。その時はこっちも言うから、それまではごゆっくり」 司さんはそう言ってすぐにカウンターへ戻って行ってしまった。 「え、え?席をここに移動したってこと?」 「うん。ちょっとコドモ同士の話があるからって言ってきた」 「マジ!?うへー……ハズイ……」 「しょうがないでしょ!しーちゃんヘンだもん!どうせみんなヘンって思ってんだからこの際いいの!」 瑞希の開き直りに勝てるモンなんて、ねーよな……
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