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ふっと近くのライトが灯った。
外を見ればまだ5時にはなってないもののすっかり日は落ちて、心なしか行き交う通行人も背中を丸めて足早に通り過ぎてく。
「ありがと瑞希。なんか、こうやって吐き出せたから、落ち着いた。
でもほんとに無理だよ。先生は、そんなこと望んでない……」
皿の上のミニタルトに手が伸びない。
女の子じゃあるまいし、胸がいっぱいで食べられないなんて言えねえよ……
「しーちゃんの好きってそんなもん?」
あんまり聞かない平坦な低い声に、思わず目を上げた。
瑞希はお母さんそっくりのやけに綺麗な真顔で俺を見据えてた。
「じゃあ、このまま言わないで今まで通りいくの?受験終わったら?ずっとおーちゃんの所に勉強に行くの?その気持ち抱えたままで?」
言われなくったって気づいてることをズバズバ切り込まれて、でも……図星で怒り出すほど俺と瑞希の仲は浅くなくて。
だってこいつは分かって言ってんだ。
それに俺が気付いてるってことも。図星を突かれて痛いことも。
「それは……無理だよ……」
「じゃあどうするの?諦めて、おーちゃんとさよならするの?」
「……」
「それだったら、最悪、告白してフラれて会えなくなったって同じじゃん」
先生ともう会えない、と考えると、胸が塞いだようになって息がし辛い。気持ちに気づいてからの俺は呼吸すら先生に支配されてるみたいだ……
「でもね!そっちの可能性より、イケる可能性の方が高いんだよ!俺のカンが当たるの知ってるでしょ!絶対イケる!
俺が尚くんにぶつかってった時より、よっぽど勝算があるよ!」
明るさと真剣さを湛えた瞳が力強く輝く。それを間近に見て……俺は……
「ごめん。ちょっといい……?」
声にはっとして、俺と瑞希は同時に見上げた。
司さんは、笑いを堪えた顔で身体をかがめて、「君ら、顔……すごい近いよ?周りに見られてたの、知ってた?」って囁くように言った。
え、と互いに見合わせた顔はほんと……確かにバカップルかって距離で。俺は慌てて体を起こし、瑞希はえへへ、と笑いながら体を引き、背筋を伸ばした。
「あのね、今お客さんから電話があって、5分くらいでここ空けなきゃいけないんだけど、いい?」
少し申し訳なさそうに言う司さんに、俺も瑞希も慌ててお礼を言って、トレーを持って席を立つ。
「続きは、あとでね」
瑞希がそう言うのに返事が出来なかったのが、俺の今の正直な気持ち。
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