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腕を組んで眠そうに椅子に寄りかかってた越智さんは、実際に眠いのか大きなあくびを一つして「どうしたもんかなぁ……」と誰に向けたのかわからない感じに呟いた。
何を指してるのかは分かったけど、このまま黙ってれば流れてっちまうちいさな取っ掛かりだったし、いつもの俺なら当然スルー。初対面でそんな義理ないし。
けど、なんつーのかな。気まぐれ?
まぁ正直に言えばこの人に興味が湧いちゃったから、少し突っ込んでみようかなってね。
「ほんとに心当たりないの」
「あったらこんな気分になってねえ」
人によっちゃあハテナなセリフの応酬。でも、越智さんも分かるヒトみたいだね。面白い。
「ま、一応ソレかなって事はあったけど……そのせいで俺のことがイヤなんかなって思ったけどさぁ、そうじゃねえみたいだし。ほんっと意味分かんねえ」
越智さんは、同じく追加で頼んだコーヒーを一口飲んで、あータバコ吸いてえ、と呟いて短い髪をかきあげ、ぐんと伸びをした。
瑞希からは、「しーちゃんはおーちゃんをすごい尊敬してて憧れてて、大好きなの」って聞いてた。越智さんも可愛いって目で見てて、いい雰囲気の2人だって。
でも今日見たしーちゃんは、なんていうのかな……緊張してたよね。妙に。
それになんか切ない顔してた。一瞬。そうそう、タルト食べた顔見て越智さんが声かけた時だ。
なんで?
「あんた、ほんとになんもしてないの?あの子緊張してたでしょ、あんたに対して」
「そーなんだよなぁ。なんかびくびくしてんだよ。けどマジなんもしてねえし。もともとガキは趣味じゃねえし、あいつのこともまだそういう目で見たことはねえよ。」
聞き流しそうな、「まだ」が引っかかっちゃうんだよね。性分的に。
「なに、まだって。今後は違うって事?」
「先のことは分かんねえだろ」
含みのある言い方は、それだけで答えじゃないの?越智さん。
「まぁあの子たちも成長しますしね。どうします?しーちゃんが、お色気開花させて迫って来たら」
「士央が色気!?ははは あいつはぜってぇ色気より食い気だ」
「いやぁどうかな。案外分かんないよ?ああいうのが」
「それゆーなら瑞希だろ。付き合って1年なのにまだ手ぇ付けてねえなんてさ。やっぱガキは無理なんか?」
「待つのも楽しむタイプなの。あんたは我慢しなさそーだよね」
そんなやり取りも楽しくて……酒がないのがほんと残念。
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