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ふっと沈黙が訪れて、店内のざわめきが耳に入って来る。
はてさてあの子たちは何を話しているのやら。
ちょうどカウンターと厨房を挟んでUの字型になった店内の端と端にいるらしく、瑞希たちの姿は見えない。
「どうすんの?ほっとく?」
「それっきゃねえだろ。さっきもヘンだっつーのは言ったの。でもスルーされたし」
「あーあ。かわいそーに。受験生なのに」
俺がテーブルに肘をついて両手で持ったカップに口を付けつつ、ちろっと目線を送ったら、
「なんだよ。なんで俺がわりぃみてーになってんだよ」
って不満そうに睨まれた。ああ楽しい。
「だって~越智さん大人でしょ?大人だったらアナタ。もっとなんかあるでしょ」
「てめーだって大人だろっ」
「私には瑞希がいますから。定員一名満員御礼ですよ」
「どうしろっつーんだよ。聞いても言わねえのに。どうした?言ってみ?なんて、いちいち訊いてやるほど優しくねえし、言わねえってことは自分で考えてぇんだろ」
気になるだけにままならない状況がイラつくらしい越智さんは、一口かじって置いてた伊予柑のタルトをぽい、と口に放り込んだ。
「まぁ俺は別にいいですけど?」
気に障るだろうって分かってる言い方をして、カップを揺らしながら意味なくコーヒーの波を眺める。
「なんだよ。じゃあお前だったらどうすんの?瑞希がなんかヘンだったら」
ちょっと不貞腐れた感じの越智さんが片眉を上げて探るような目つきをした。
「そりゃあ聞いてあげますよ。話を。話さないなら体に聞きますよ」
「それ参考になんねーわ」
「もうちょっと聞いてやったらいいじゃない。一応可愛い教え子なんでしょ?」
「教え子じゃねえ」
そんなふうなことをね、ちょろちょろと喋ってたらあの子たちが帰って来たわけ。
「ごめんね!寂しかったでしょ」
にこっと笑って俺を見る瑞希。やっぱ可愛いよね。うちの子は。
まぁ俺も可愛い恋人の親友が悩んでるってなれば、そこそこ気にはなんのよ。当然。だから──
「さて。私たちはそろそろお暇させてもらいますよ。食い終わったし。しーちゃん、越智さんがなんか聞きたいことあんだって。タルトも残ってるみたいだし、もう少しゆっくりしていきなよ」
なんて小さい爆弾を一つ落とし、瑞希を促して立ち上がった。
「支倉……今度また飲もーや……」
はは、目が怖いよ越智さん。頑張ってね?大人なんだから。
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