755人が本棚に入れています
本棚に追加
託されて
Side:O
ったく、いい性格してるわ、あいつ。
俺は椅子にもたれ掛かって腕組みをしたまま、会計を済ませて出てく二人を見送った。
席を離れるとき、瑞希のやつ意味ありげに士央を見つめて拳にぎゅって力入れてさ。頑張って!みたいなさ。
そんなん見たら、士央が俺に言いたいことがあるんだっての、カクジツじゃん……
はぁ~……やっぱ俺が何かしたんか……?マジわっかんねぇ……
4人掛けの片側に並んで座った俺と士央は、しばらく黙ってそのままでいた。
いや、俺だって考えたよ。向かいに移動しようかなって。
けどさ、なんかそうやって席替わったら『さあ。なんか言いてぇことあんだろ。言えよ』みたいな空気になんじゃん。
俺、相手が黙ってんのを無理に言わしたりとか……好きじゃねえの。自分がされたくねえもん、そういうこと。
だから、士央が言いてぇんなら聞くけど、わざわざ言うように仕向けんのは嫌なんだよなぁ。
そんなことを考えてたら、司がやって来たの。瑞希と支倉のトレーを片付けになんだろうけど、目を見りゃこっちの様子を伺ってんのが分かる。
「保、コーヒーのお替りいる?」
トレーを持ち上げながら司が訊いてきたけど、瞬間、タルトを二つ食い残してる士央の皿に視線が動いた。
「んーいいや。お水ちょうだい」
「了解。……士央くんは?紅茶かコーヒーか……新しいのいる?」
司がタルトのことに触れないのは、まぁ、状況を読んでの事なんだろうな。
「いえ……もうお腹いっぱいで……」
「ん。じゃあお水だけね。席、どうする?良かったら士央くん、こっちに来る?」
司が瑞希が座ってた椅子を引いて促すと、士央は「えっ」としばらく絶句してからゆっくり立ち上がり、俺の斜め向かいに座り直した。
司が行ってしまうと、士央はこっちからは表情が見えないくらい俯く。
白いシャツに杢グレーのケーブルニット。少し長めの黒髪の、健康的な光の輪。
相手が黙って俯いてると、なんか妙に見ちまうよな。まじまじと。
すぐに戻ってきた司が俺のグラスに水を注ぎ、テーブルのあいた場所を台拭きで拭いて、士央のトレーを移動させる。
俯いたままぺこりと頭を下げた士央を見て、司がお前どうするつもり?って感じの目線を寄越してさ……
なんだよ、どいつもこいつも!俺にどうしろってんだよ……
最初のコメントを投稿しよう!