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「お前……ほんと、どしたの」
セリフと一緒にため息が出たのは……なんか、支倉や司に言われて言ってるみたいで嫌だったから。
あからさまに緊張を増した士央が、それでも目線を上げないからもう1つため息が出る。
「俺、なんかした?そうなら言ってくんねえと分かんねえよ」
俺の言葉に「違います!」って弾かれたように顔を上げた士央は、俺と目が合った途端「ひっ」と引きつったような声を上げて固まった。
「お前…なんなの。『ひっ』って……」
なんかマンガかなんかみたいな反応が可笑しくて、思わず笑いが漏れた。そしたら……
士央の目がじわ~~っと潤んでみるみるうちに眼のふちがゆらゆら揺れて、まるで金縛りにあったみたいに俺をじーっと見つめてきて……
笑いを残した顔のまま、俺も固まった。
くるしいです、ってやっと聞き取れるような小さい声で士央が言う。
「なんで……?」
「………」
何かを言いかけるんだけど、微かに震える唇から言葉が出てこない。
瞬きに合わせて、揺れていた両目からほろっと涙が零れると、士央の手が少し乱暴に目と、頬に残るその跡を拭う。
は~……重症だなこりゃ。
「ここじゃ話しにくいことだったら、うち来るか?」
いつもだったらぜってぇ言わねえ。
もう……人生上初めてかもしれねえレベルのお節介。
「でも……あの……」
「いや、話したくねえならいいの。マジで。でも……俺になんか言いてぇんだろ?」
士央はどーしよー、どーしたらいいんだーってのがモロに出てる顔で俺を見てきて……大マジなんだろうけどなんか笑える。
「何がそんなに言いにくいのか知らねえけど、俺、たいがいのことは平気だぞ?」
別にコイツの気持ちをほぐそうとして言ったんじゃねえけど、そう言いながら俺がグラスの水を口に含むと、士央が微かに微笑んだ。
底に沈んだ小さなレモンの欠片から移った爽やかな香りが、ふうっと鼻に抜ける。
「あんま深刻になんなよ。何が言いたいにしろ。深刻になると、あんまうまくいかねえ。なんでも」
ふと見ると、士央がいつもみたいにそうなのかーって顔で俺を見てる。
ほんと…くるくる変わる表情は見てて飽きねえけど、やっぱ笑ってる顔が好きだな。でっかい目ぇキラキラさせて、うまい!って顔。あれが好きだ。
「先生のお家に……お邪魔させてください……」
士央がそう言ったのは、それからすぐだった。
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