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母親は、越智先生を先生としてはまだ100パーセント信じられないようだった。 そりゃそうだろう。勉強なんて一つも教えてもらってない。ある意味彼女の勘は正しい。 「いよいよ来週中間テストなんです、先生。もう対策はして頂いてると思いますけど。 私、今回はすごく期待してるんです。結果が楽しみで楽しみで……」 先週の家庭教師の時間の別れ際に、笑顔で遠回しに「結果次第ではやめてもらう」って脅しながら言った母親の顔。 それが今週。先生が玄関に入ってくるなりぱあっと輝いて、ちょっと興奮気味に「先生ありがとうございます!」って頭を下げた。 「先生!この子、手応えあったって言うんです!まだ答案は返って来てないんですけど……そんなこと言うの初めてで、私嬉しくて!先生にお願いして本当に良かった!」 晴れ晴れと言う母親に気圧されながら先生はちょっと戸惑った顔をしてて、俺は胸のすく思いがした。 俺の部屋に入ってどさっと椅子に腰かけるなり、先生が「どういうこと」ってぶっきらぼうに言ってきた。 「俺ぁてっきり中間テストが終わりゃあこの仕事も終わりだって思ってたんだけど」 「母が言ってたでしょ。先生のおかげですよ。先生が寝ててくれるお蔭で勉強がはかどるんです」 「意味わかんねぇよ。何のために?そんなら家庭教師なんか頼まずに自分ですりゃあいいじゃねえか」 「誰かがいてくれないと勉強できない性質なんですよ」 先生は俺の顔をじ―っと穴が開きそうなほど見つめて、ふう、とため息をついて背もたれに寄りかかった。 「ま、どっちにしろ今月いっぱいでやめさせてもらうわ」 そう目を閉じたまま先生が言った時、俺の胸はズキンと痛んだ。そうならないために中間テストの成績を上げたのに……! 「なぜですか。うちのバイト代は破格だって峰岸さんは言ってましたけど」 「お前なぁ……金でしか物が考えられねえの?俺ぁもともと鼻持ちならねえ金持ちのガキの顔を拝んでみてぇってだけの動機だから。小金も稼げたし、もう用はねえよ」 プライドも、なんもかんもズタズタだった。すごく惹かれるこの人に、ばっさり斬り捨てられて。 それでも諦めきれないのに……どうすれば引き留められるのかが分からなかった。
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