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「えっ?!」
「向きが違うの。こうだよ、こう」
まなが、自分の手でハートを作る。でも、ゆきのとは形が違って、親指がハートの切れ込み部分になっている。
「ああっ……!!安斎さんに、騙された……!!」
「騙されてないから。……こうやると、尖ったとこが人差し指になるの」
「なるほどー!!すごいね!」
まなに言われて、納得する。
向かい合ってる時の指かあ……宝石店の人って、いろいろんなお客さんが来るだろうから、いろいろ考えてるんだなあ。
「なら、これで良くないか?」
夫がなんだか手を動かしつつ、ぶつぶつと呟いた。
「ちぃ、左手でキツネさん作ってくれないか」
「キツネさん?」
「っキツネさっ」
「ゆきっ」
夫のキツネ「さん」にゆきが反応しそうになって、まなが止めている。さすが、まな……ゆきの扱いが完璧だ。
「こう?」
「ああ。これだ、これ。この、長い方の耳だろ」
「……あー!!」
夫が私のキツネ……さんの耳の、人差し指を指差すと、ゆきがものすごく嬉しそうに笑った。
「まな!キツネさん作ってみて!」
「はいはい」
まながキツネの手にしてちょいちょいって動かすと、ゆきが、がしっ!と人差し指を握った。
「そう!これですこれ!すごいなあ、キツネさん!ありがとうございます。再来週安斎さんに教えてあげよう!!」
「良かったな、雪彦君」
「……良かったね、ゆき……」
「……良かった良かった……」
……良かったよ、男二人が意気投合して。
私とまなは、二人で顔を見合わせて、こっそり笑った。
「店員さんに得意そうにキツネさんのこと教えたら『ハートの方が可愛くないですか?』って言われて、ゆき、ムッとしてた。」
干支の飴のお土産といっしょにまなからそう報告を受けたのは、その年の年末のお話だ。
【終】
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