第二戦

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 マンション七階最上階、南東角部屋4LDK、南向きバルコニー及び東の洋室二部屋にサービスバルコニー付き――。  東向きに四つの洋室が並ぶ南端の部屋を、祖父は愛用していた。 「他の部屋はほとんど使ってない感じだ。一人暮らしだと、そうなるよな」  そんな風に語っていた叔父の指摘は、あながち外れておらず、他の三部屋には使いこまれた形跡はなく、どこか寒々としている。三日間限定の同居生活において、叔父は玄関を入ってすぐ左手にある六畳間を、尊はその隣の部屋を使用した。  リビング・ダイニングに隣接する南端の部屋は、南と東に窓があり、最も明るく風通しもよい。叔父の説明通り、父の手が入った部屋は綺麗に片づけられており、マットレスが剥き出しのベッドが一つ、置かれているだけであった。 (一人暮らし、か)  ぽつねんと置かれたベッドを目に、祖父が噛みしめたであろう孤独が不意に押し寄せた。もっと、遠慮せずに遊びに行けばよかった。俺たちがじいちゃんと仲良くなれば、父さんも自然と距離を詰められたのかもしれない。そうすれば、誉だってここに早く戻って来ていたかもしれないし、あんなに、ひねくれた性格にならずにすんだかも――。  十一歳の単純な思考は叔父の人格形成にまで及び、無念さを噛みしめながら壁面収納の戸を引いた。 「ギャ――――ッ!!」  なだれ落ちてきた物がバサバサと床に積み上がる。幸い、重い物はなく、ほとんどが書類――ぱっと見た限り、公共料金の領収書や、何年前のものかわからない年賀状、地域の広報誌など――だ。  紙類の雪崩をくらい、呆然と立ち尽くす。恐る恐る別の戸棚を開くと、ほぼ同様の惨状が視界を埋め、思わず叫んだ。 「……馬鹿父子どもがッ」  亡き祖父の住まいは、少なくともリビングだけは常にこざっぱりと片付いて見えたのに。物が多い環境は嫌いだったらしく、家具も家電も最小限の暮らしぶりであった。 「大事かどうかが、わかんないから困るんだよなー」  父の口癖が蘇る。学校や区役所からの知らせが順番に積み上げられていき、最終的には重ねた状態で「必要かもしれないラック」行きとなるのだ。表に見えなければいい。見えないものの存在など忘れてしまう。……DNAとは、こんなところまで似てしまうのか。高齢で一人暮らしだった祖父はともかく、父の悪癖はすぐにでも矯正しなければなるまい。 「あいつ……知ってた、よな?」  なにが「大方、片付いている」だ!! 涼しい顔で神社へ向かった誉を思い出して、頭に血が昇った。
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