第二戦

3/4

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 巣作りするビーバー顔負けの勤勉さを発揮した尊により、六畳の部屋一面に広がる壁面収納の半分ほどが片づいた。 「どう考えても不要なもの」と「判断不能のもの」とに分け、最終判断は大人に委ねることとなる。平積みされた書類たちは、順序よく下に行くほど日付けが古く、市の広報誌→ガス代領収書→年金関連の通知、といった具合に順番まできちっと揃っていた。幸いにも残り半分の戸棚は文庫本や雑誌類であり、そこそこ整頓された状態ではある。片づけを命令した悪徳司令官に、いたいけな子供が奮闘する様をドキュメンタリー映像で見てほしい。 「やれやれ」  年寄りくさい掛け声を上げて、一番下に位置する引き出しを開ける。棚一杯に押しこめられていたのは写真……デジタル世代ではない祖父は、店舗に現像を依頼していたのだろう。店で渡される袋の状態のまま仕舞われていた思い出たちを無造作につかんで取り出した。  ここ数年は写真を撮る機会も少なかったのか、あるいはアルバムに整理したのか不明だが、最上位にあった写真でも、十年ほど前の日付である。神社での祭祀や、町内会での宴会や旅行の光景らしき写真が多い。直近の記憶にいる祖父よりもかなり若い。厳めしい表情だけは変わりなく、どの写真もキッと引き締めた口元が祖父らしかった。  一冊のアルバムが袋と袋の間から顔をのぞかせた。  アルバムと言っても、店でおまけとして渡される薄い簡素なものである。かなり古いものらしく、表紙を飾る仔猫の絵もはげかかっている。何の気なく中を開いた尊は、最初の写真に目を奪われて、思わず顔を近づけた。 (……父さん、だ)  カメラに向かって屈託なく笑う顔は純朴そのもので、鷹揚な人となりを存分に表している。父の歴史を遡れば、常に同じ笑顔で写っているのではなかろうか。青年時代の父を目に、どこか、こそばゆい想いとともについ笑みがこぼれた――のも、束の間だった。 (これ……誰……?)  思わず疑問文が落ちたが、答えは明白である。  自宅でくつろぐの一コマ――父の逞しい腕に収まる小さな子供は二歳児ほどだろうか。一見、女の子かと思ったが、服装からして男児だろう。幼児のくせに寸分狂いのない綺麗な顔貌は、紛れもなく誉であった。  機械的にページをくくる尊の目に、似たような写真が何枚も映し出される。常闇神社の前で撮影された七五三の晴れ姿、幼稚園の入園式、遠足や運動会での微笑ましい光景……。  すべて、父と誉だけが映っている。  親子のように、仲睦まじく、笑顔で。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加