21人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
第二戦(延長戦)
夕食は、「おもちグラタン」にした。
昨日、衝動的に作った雑煮で使用した餅が余っていたのと、一人なので簡単に済ませたかったからだ。
ウインナー、トマト、ブロッコリーとともに焼き目をつけた洋風グラタンは、上々の出来である。餅とチーズを繰り返し伸ばして遊ぶが、一人で座る食卓では少々面白味に欠けた。
誉は氏子総代に呼ばれて、飲み会に出かけていった。
唐突な誘いの電話にもソツなく応じていた彼は、尊とは異なり、世渡り上手で器用な人間のようである。それとも、年を経れば、自然と社交性が身につくのだろうか。
「そういうわけで、夕方から出かける。なるべく遅くならないうちに帰るけど――」
大丈夫か?
電話を終えた誉に真顔で問われて、思わず姿勢を正した。小さな子供じゃあるまいし。無言で頷くと、叔父も了解したという風に静かに同じ動きを返した。
「悪い」
きちんと目を合わせたまま述べられた詫びに軽く驚いたが、表情を探る間もなく、誉は背中を向けていた。
結局、尊が就寝する時刻になっても、誉は戻らなかった。
これまで、どれほど父の帰宅が遅い日でも、常に姉が側にいたために、留守番を寂しく感じたことはない。なかなか寝つけずに、布団の中で何度も寝返りを打ちながら、これが孤独というものかと感慨すら覚えていた。
(じいちゃんも、こんな風だったのかな……)
ひとりきりで過ごす時間は所在ない。誰にも制約されずに、気儘な自由を謳歌できるはずなのに、何をしても楽しくない。不思議なものだ。溢れているはずの時間がゆるりと速度を落とし、重く、鈍く、尊の身にのしかかってくる。
諦めとともに床に就き、まんじりともせず夜を過ごし、怠惰な朝にやむなく身を起こす。
毎日、毎晩、その繰り返し――。
ぎゅうっと瞳を閉じて、無理矢理に眠りにつこうと試みた。脳内に描いた無限の草原に柵を設置し、モコモコした毛並の羊に順序よく飛び越えさせていく。羊が一匹、羊が二匹……。時折、顔貌の黒いものや、ヌー並の強固な角を持つものを交えさせて変化を加えたが、まったく眠気は訪れない。半ば意地で数え続けていた羊は、三十を超えようとしている。
夜の静寂を破った鈍い音に、枕をそばだてた。
最初のコメントを投稿しよう!