第二戦(延長戦)

4/5

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 二人の目覚めは、予定よりもかなり早くに訪れた。  壊されんばかりに開錠された玄関の音に気づいた二人が起き出すよりも先に、招かれざる客が大絶叫を上げた。 「誉! 尊! 無事かッ」  頭上で炸裂した大声に、尊は布団の中で身を硬くした。 「なに! なに! なんなんだよっ!!」  すぐ隣で喚き散らす誉の声に、顔半分だけを覗かせる。寝起きの瞳に飛びこんできたのは、がっちりと弟を抱擁する父の姿だった。 「あれ? 尊まで? ていうか、なんで玄関で寝てるんだ?」 「……えーと、誉が酔いつぶれて帰宅して……動かせないから、布団をこっちに持ってきた」 「……なるほど」 「なに、納得してんだ! いいから、離せよっ!!」  言葉足らず同士の会話に、父の胸中に収まる誉が抗議の叫びを上げたが、通じるはずもなかった。 「よい、せっ」  軽々と持ち上げられた誉を追う尊の瞳が上目遣いとなった。プロサッカーチームに所属する選手たちのフィジカル面もサポートする父は、運動力学も専門分野である。それにしても……。  父の首元にすがる(しかない)誉の表情は窺えない。お姫様よろしく運ばれる叔父と、安定した足取りで進む父を、布団の上であんぐりと口を開けて見届けていた。 (父さん……すげーな)  腕力もさることながら、減らず口の叔父を一発で黙らせた父は、やはり尊にとってのヒーローに違いなかった。 「おお、ありがと!」  布団を抱えて二人の後を追うと、ちょうど誉の部屋から出ようとしていた父と鉢合わせた。大荷物をバトンタッチし、父の背後から様子を窺うと、誉は横向きの寝姿のまま動かなかった。 「いま、何時?」 「二時! 草木も眠る丑三つ時ってヤツだ。尊も早く寝ろ」 「目が冴えちゃったよ。……父さん、仕事中だったんでしょ? いいの?」 「家族の危機だ、って伝えたら、即オッケーが出た。アントニオは家族ファーストだから大丈夫!」  布団を被せられても、地声の大きな父の声を聞いても、身動き一つしない叔父に聞こえていないはずはない。尊の電話が父の誤解を招いたことは、とりあえず伏せておくことにして、父子は部屋を後にした。  父はカフェインレスのインスタントコーヒー、尊はホットミルクを手に、食卓に腰かけた頃には、二時を十分ほど過ぎていた。  普段なら絶対に起きていない時刻に、父と差し向う状況に胸が高鳴り、姉に自慢できることが一つできたことを喜んだ。 「でね、富士子ちゃんがお寿司をご馳走してくれたんだ」  二日間の出来事を報告しているうちに、アルバムの存在を思い出した。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加