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※裏の顔
奏輔さんから聞いた話。瞳さんは、奏輔さんの初めての彼女にとても似ているらしい。
あの理不尽な目に遭って自殺してしまった高校時代の彼女さんに。奏輔さんはその彼女を助けられなかった後悔を抱えつつ、もう一方でその彼女がされたむごい仕打ちを思い返しては、同じように女性をいたぶってみたい気持ちを抑えられないそうだ。
奏輔さん自身も芸能界で今の地位に辿りつくまで、名もない頃は相当嫌な思いもしてきた。だから、今度は自分の自由になる口の固い女性を一人側に置きたいと思って、瞳さんをマネージャーにしては破格のお給料で雇っている。
奏輔さんは業界の若手女優やタレントと付き合うときにはかなり用心して、あまりキツイことはしない。別れたときに何を暴露されるか報復が怖いから。
その代わりに瞳さんは…。全身傷だらけ。奏輔さんのストレスが溜まると瞳さんは、暴漢に襲われるように奏輔さんに痛めつけられながら求められるそうだ。
奏輔さん自身も悩んでいて、
「瞳と同じように他の女の子にもしたいと思うけど業界の子達だから…口が軽いと困る。暴露本とか出されたら嫌だし我慢している」
ポツリポツリと瞳さんのことを話すときの奏輔さんは、瞳さんがいかに従順で尽くしてくれるのか際どいことまで話してくる。
「瞳は何でも僕の言いなりだから…」
奏輔さんの顔つきがいつになく卑屈で目つきが怖くなる。瞳さんの洋服を引きちぎって、ブラウスのボタンがパランとパランと落ちる音程が心地いいとか。スカートをナイフの刃で簾のように切り裂いて瞳さんがポロポロ泣く姿がいじましいとか。
出すものを出して尚、被虐心が収まらないときに手の甲を灰皿代わりにしても、瞳さんは嗚咽を漏らしながらじっと耐えて、逆らわない。
その黙って耐える姿が奏輔さんを更に調子に乗らせて、瞳さんの身体をベルトで打ちすえたり蹴ったり殴ったりしている。瞳さんの身体の傷は増えるばかりで、みみずばれになっているらしい。
「顔だけはね…形変わっちゃうから」
奏輔さんはまるで唯一の愛情のように瞳さんの顔を傷つけないことを誇らしげに語るけど、奏輔さんの保身しか感じない。顔を腫らしたマネージャーがいたら、タレントが殴ったと一発でバレるからやらないだけだと思う。
歪んでいる。奏輔さんは自分の鬱屈とした気持ちを全部瞳さんにぶつけて、お金で解決しているだけ。瞳さんはきっと奏輔さんが好きで離れなれない。奏輔さんはどこまでの思いで瞳さんを見ているんだろう。
私は自分が安全な立ち位置にいることに少しだけ優越感を感じている。奏輔さんの良い部分だけを見られるなら、キスとハグだけで飼い殺しされてもいい。
瞳さんのように傷だらけになって泥沼に嵌まるくらいなら、純愛ごっこの相手で相談役、なんちゃってセラピストの方がまし。
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