※不審な電話

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※不審な電話

FOXTROTのツアーファイナルの前日、奏輔さんから電話があった。 「明日ツアーファイナル来てくれる?」 「ハイ、行きます。あのハイビスカスありがとうございます」 「喜んでもらえたなら良かった」 二人の会話の間に妙な気配を感じる。 押し殺した荒い息づかいが聞こえる。奏輔さんのものではない。 「明日打ち上げ終わったら迎えに行ってもいい?」 奏輔さんは何事もないように問いかける。 「明日は私も23時になれば空きます」 「じゃあ、なるべく早く打ち上げ切り上げるから、デートしよう」 電話の向こう側から、規則的な乾いパシッパチンと火花が弾けるような音と、何かに打たれる度に漏れる悲鳴に近い息づかいが聞こえる。隣にいるのは瞳さんか…。 私にデートの誘いの電話を掛けながら、瞳さんと「してる」んだろうな。明日はやっぱり行きません、そう言いたいのに、言葉に詰まる。私の反応は想定内という感じで、 「明日の打ち上げの後は朝まで幸花と一緒にいたいな」 目の前に奏輔さんがいたら確実に張り倒してると思う。電話でも怒鳴り散らすことくらいは出来る。私は静かにもう会いたくありませんと低い声で言おうと息を吸った。その瞬間、 「痛い!やめて!」 瞳さんの掠れた悲鳴が電話の会話を遮った。奏輔さんの舌打ちがスピーカーから聞こえたと思ったら、バチンと一段と強く乾いた音がして、ベリッベリッと何かを剥がす音が聞こえた。 無言で電話を切りたいのに、電話の向こうで何が起きているのか薄々察しがついてしまって、スマホを握りしめて離せない。 「ごめんね、ちょっとドラマ観ててさ」 120%嘘の言い訳を奏輔さんがしてくる。声は間違いなく瞳さんだし、アーティストのマネージャーがドラマに出る訳はない。 ムー、んー、ふぅふぅとどう聞いても瞳さんだと分かる吐息がノイズのように電話に入る。さっきのベリッていう音はガムテープか何かを剥がして、瞳さんの口を封じたってこと?何か言わなきゃ…。でも、何を言えば…。迷っていると、 「じゃあ明日またね、好きだよ幸花」 電話は一方的に切れてしまった。最低の男。頭で分かってるのに、瞳さんの身に起きていることを考えると嫉妬してしまう。 どうして奏輔さんは私には距離を取ってる癖に瞳さんには全てをさらけ出すの?それを自慢するように私と電話してるときにわざわざあんなことするの? 瞳さんもきっと同じ思いじゃないかな。二人だけの秘密の時間のはずなのに、あんな風に電話で違う女の子に好きだのデートしようだの言われて、苦しいはず。 私は迷いながらも明日のツアーファイナルに着ていく服を探し始めていた。甘ロリータ服ではさすがに行けないから、それに近いようなふんわり甘いティストの洋服を鏡の前で合わせる。結局奏輔さんに逢いたい気持ちの方が強くて、行かないという選択肢ははるかかなたへ追いやられていった。
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