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純愛デート
奏輔さんとのデートはいつも夢の中を歩いているようにキラキラしている。紳士的な王子様。馬車の代わりに真っ赤なポルシェで迎えに来てくれる。
隠れ家のようなレストランやカフェ。
個室の中も外もおとぎ話の世界のようにメルヘンチック。マスコミ対策で貸し切り。
料理やケーキが給仕されると、食べさせっこが始まる。ほとんどお酒が飲めない私にほんの一口だけ甘いカクテルを分けてくれる奏輔さん。桃の味がする。ピーチベースのカクテルなんて奏輔さんの好みじゃない。奏輔さんはシトラス系のサッパリしたカクテルが好き。
「幸花は酸っぱいのは嫌いでしょ?」
私は、うっとりしながら、
「うん、甘い方が好き。でも、奏輔さんが好きだからシトラス系も好きになれそう」
「それじゃあ、もう一口だけね。幸花はお酒弱いんだから無理しちゃダメだよ」
「奏輔さんも飲み過ぎは体に悪いから気をつけてね」
「僕は少し飲み過ぎるくらいでちょうどいいの。幸花に変なことしないように」
「飲み過ぎると…そういう気持ちってなくなるの?」
「まあ男はね。女の子は無防備になるから飲み過ぎちゃダメ」
奏輔さんは私のほっぺたをふにふにして笑う。私はほっぺたふにふに攻撃に撃沈して、個室なのをいいことに奏輔さんの胸に甘える。私たちのじゃれあいを見て見ぬフリをしてくれる給仕の女性が、シトラス系のカクテルを置いて去っていく。
「今度は私が奏輔さんに飲ませたいな」
私がカクテルグラスを手に取ると、
「嬉しいな、幸花はいつも控え目だから。そんなに積極的な姿も好きだよ」
「私はいつもどんな奏輔さんでも大好き」
そう言ってからレモンの香りがするカクテルを口移しで奏輔さんの口元に運ぶ。
「美味しい。レモンなのに甘い」
奏輔さんは目尻が下がってくしゃくしゃって顔をして、笑う。そして、花束から一輪のピンクのスイートピーを手折って、私の髪に差す。
「さて、僕のお姫様。ディナーはこのくらいにして二人の時間にしましょう」
個室のレストランを後にして、ハイヤーで奏輔さんの邸宅へと向かう。奏輔さんの愛車ポルシェはマネージャーさんが運転して家まで運んでくれる。
「奏輔さん、ほっぺた赤いよ」
私は奏輔さんに頬ずりする。奏輔さんは私の膝に頭をコテンと乗せて甘えてくる。私は頭を撫でてヨシヨシする。
「このまま少し眠らせて」
奏輔さんはそう言った癖に、私のふわふわのスカート越しに太ももに熱い吐息を吹きかけてくる。
「奏輔さん…眠いっていったくせにもう」
「眠気より甘えたい気持ちが勝った」
そう言うと、私の膝の上で甘えながら腰にギュッと腕を回してくる。奏輔さんの髪を右手で撫でながら、左手で背中を撫でる。
私よりずっと大変な世界で生きてる奏輔さんは、どれだけのプレッシャーを抱えて仕事をしてるんだろう。
私は結構マイペースで仕事させてもらっているけど、奏輔さんは過密スケジュールに追われている。本当は私と逢うよりゆっくり眠りたいんじゃないのかな?
そんなことを考えているとものの三分もしないうちに奏輔さんの寝息が聞こえてきた。やっぱり相当疲れてるんだ。
ハイヤーが奏輔さんの邸宅に着くと運転手さんがバックミラー越しに私を見る。私は人差し指を口に宛てて静かにというゼスチャーをする。
そして、奏輔さんを起こさないようにそっと膝枕を横にずらして、奏輔さんはハイヤーの後部座席でゴロンと横になる。
邸宅に先に着いていたマネージャーの瞳さんに事情を話して、奏輔さんが風邪をひかないように毛布を持ってきてもらう。瞳さんは、
「二時間後にはスタジオに戻るからこのままにしておきましょう。幸花さんは別のハイヤーで帰るといいわ、送らせるから」
テキパキとハイヤーの運転手に指示出しをしながら、スケジュール帳を確認している。
「なんか…無理させてしまってすみません」
瞳さんに頭を下げると、
「いいのよ。あなたは奏輔にとってセラピストのような存在だし、気にしてないわ」
瞳さんは気にしてないの所だけ少し口調がキツかった。瞳さんはどんなに暑くても長袖にロングスカート、レッグウェアーは濃い色の物しか履かない。
それでも瞳さんの手の甲には、煙草の火を押し当てた根性焼きの跡が目立つ。ドット柄のプリントのように幾つも幾つもひきつった火傷のある。瞳さんの見送りで奏輔さんの邸宅の前でもう一度ハイヤーに乗り込む。自宅に向かう道。
奏輔さんの負の部分を全部一人で背負っている瞳さん。奏輔さんから瞳さんの事を聞かされたときに、私は逃げたいと思った。だってそれは、あまりにも酷い仕打ちだったから…。
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