サプライズ

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サプライズ

奏輔さんと逢わない日はほとんど仕事をしている。手が腱鞘炎になりそうなほどイラストを描いている。若手のうちに結果を残さないと生き残るのは厳しい。 私の唯一の強みは自分の仕事が自分で完結出来るところ。奏輔さんのように華やかに芸能界で活躍は出来ないけれど、地道に仕事をしている。美大在学中に雑貨デザイナーとして芽を出して卒業後にすぐ活躍出来る幸運に恵まれ、地方のイベントにも積極的に営業に出かける。 自分の絵の世界にいるときだけは、奏輔さんのことを忘れて集中出来る。でも、仕事が終わってふと暇な時間が出来ると、奏輔さんから連絡が来ていないか、スマホを五分置きにチェックしてしまう。 奏輔さんは今はFOXTROTのツアー中でかなり忙しい。瞳さんが側にいるから連絡もあまり来ないのは仕方ないと思ってる。それにツアー先にまだ売れてない芸能人の女の子を呼び寄せてる噂もたぶん本当だと思ってる。 仕事を終わらせて、自分のマンションに帰ると宅配便の不在票が入っていた。宅配便の業者に再配達を依頼して、夕飯を作りながら待つ。再配達で受け取った段ボールのラベルには奏輔さんの事務所の名前。 ウキウキしながら箱を開けると、プリザーブドフラワーになっている真っ赤なハイビスカスとメッセージカードが入っていた。奏輔さんはツアーで今頃沖縄だったっけ。 『ツアーが終わったら逢いたい、好きだよ』 一言だけ書かれたそのメッセージに舞い上がってしまう。ツアーのファイナルは東京。あと二週間でツアーが終わる。瞳さんのはからいで関係者チケットを用意してもらっているから、東京のファイナルは私もFOXTROTを観に行ける。 でも、関係者席には奏輔さんや勇也さんの業界の彼女がいっぱい来る。関係者席のあの殺伐とした空気はなんとも言えない。瞳さんは奏輔さんに言われて席を用意したものの、 「面倒だと思うなら無理しなくていいのよ。でも、奏輔のモチベーションが上がるから来て欲しいけどね」 瞳さんは、関係者席に挨拶回りをするときどんな気持ちなんだろう。奏輔さんの付き人のようなこともしているから、奏輔さんが他の女性と遊び歩っているのもよく知っているはず。許せないって思わないのかな…。 私は許すも許さないもない。だって、ものすごく中途半端な関係だから。業界の人間じゃないから深入りすると面倒臭いと思われてるのかな?。だからいつ関係を切ってもいいように手は出してないですよってこと? どんどんネガティブ思考になっていく。えーい、こういうときは仕事のアイディアでも練ろう。自宅の机に向かって絵を描き始める。 独りの時間は辛い。でも、私にはやるべきことがあって、自分の仕事を軌道に乗せるという目標がある。奏輔さんが私をどんな風に思っているのか奥底の本音は見えない。でも、仕事という軸をしっかりしておけば何があっても私はきっと大丈夫。
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