SIDE:A

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 空が少しずつ色づいてくる。あと一時間ほどで夜明けだ。  僕は田舎道を走りながら、昔に思いを馳せる。  母さんの実家は群馬県の小さな村で、自然豊かなところだ。夏休みなどの長期の休みになると、必ず連れてきてもらっていた。都会育ちの僕には見るもの全てが新鮮で、驚きに満ち溢れていた。  毎日毎日飽きもせず、山や川に遊びに行った。そして、夕日が沈む頃に家へ帰る。  東京に帰る日は、泣きたくなるほど憂鬱だった。それでも、帰れば帰ったで、すぐに元の生活に馴染んでしまうのだが。子どもというのは現金なものだ。  知らず知らずのうちに、口角が上がっていた。ここは、母さんはもちろん、僕にとっても大切な場所だ。しかし、ある夏を境にここへは来なくなった。 「なんでだっけ……」  理由を思い出せない。母さんに聞いても「あんたが行きたくないって言い出したから」と言われ、そんなことを言った覚えのない僕からすると、意味がわからなかった。  今ではもう更地になってしまっている母さんの実家。そこに車を停め、僕は外へ出た。 「さむっ!」  もっと厚着してくればよかった。そう思ったけれど後の祭りだ。  空を見ると、先ほどよりは明るくなってきて、ほんの僅かながら太陽の光を感じることができる。  僕は身体を縮こませながら、川に向かって歩いていった。
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