79人が本棚に入れています
本棚に追加
空が少しずつ色づいてくる。あと一時間ほどで夜明けだ。
僕は田舎道を走りながら、昔に思いを馳せる。
母さんの実家は群馬県の小さな村で、自然豊かなところだ。夏休みなどの長期の休みになると、必ず連れてきてもらっていた。都会育ちの僕には見るもの全てが新鮮で、驚きに満ち溢れていた。
毎日毎日飽きもせず、山や川に遊びに行った。そして、夕日が沈む頃に家へ帰る。
東京に帰る日は、泣きたくなるほど憂鬱だった。それでも、帰れば帰ったで、すぐに元の生活に馴染んでしまうのだが。子どもというのは現金なものだ。
知らず知らずのうちに、口角が上がっていた。ここは、母さんはもちろん、僕にとっても大切な場所だ。しかし、ある夏を境にここへは来なくなった。
「なんでだっけ……」
理由を思い出せない。母さんに聞いても「あんたが行きたくないって言い出したから」と言われ、そんなことを言った覚えのない僕からすると、意味がわからなかった。
今ではもう更地になってしまっている母さんの実家。そこに車を停め、僕は外へ出た。
「さむっ!」
もっと厚着してくればよかった。そう思ったけれど後の祭りだ。
空を見ると、先ほどよりは明るくなってきて、ほんの僅かながら太陽の光を感じることができる。
僕は身体を縮こませながら、川に向かって歩いていった。
最初のコメントを投稿しよう!