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眼下に僅か窺える球体が、一際大きく波打って形を変えた。球だったものがぼこぼこと膨れ上がり、全身が刺に包まれたかのような姿へと変貌する。恐らくは、またフェイズが跳ね上がったのだ。その段階を以て、赤の王の極限魔法を打ち破るつもりなのだろう。
間に合うか。
僅か一瞬だけよぎったその考えを、橙の王が強制的に排除する。余計な思考は魔法の邪魔でしかない。今の彼がすべきことは、ただ純粋な祝詞を捧げることだけである。
再び集中の糸を張り詰めた橙の王は、他の一切をその思考から追い出し、最後の祈りを音に乗せる。
「天上の 緑の神にも牙を向き――!」
身体中の血液が沸騰するような感覚のなか、これを以て詠唱は完成した。ならば、あとはその名を呼ぶだけである。
変形を経て更に苛烈さを増した水流が荒れ狂う中心を見据え、大地の王は尊き名を戴く魔法の名を叫んだ。
「――“地神の裁き”!」
それは、極限魔法と全く同じ名前をした、しかし紡がれる音色が全く異なる、究極の魔法だ。
そして王がそれを唱えた瞬間、空が大きく割れた。
雲を割き、その先にある青空までをも割り、虚空の彼方から一筋の光が降る。その光の先にあるのは、小さく艶やかな珠のような何かだ。
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