戦線 -死闘の行方-

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 橙色に輝くそれは、ふわりと水球の元へと向かったかと思うと、次の瞬間一度だけまたたき、漆黒へと変化した。同時に、まるで渦を描くかのようにして、敵の生み出した水が珠へと吸い込まれていく。その勢いは凄まじく、この場に海でも作るつもりなのかというくらいに溢れ出していた水量が、見る見る内に呑み込まれていった。  いや、違う。目を凝らした橙の王は、己の考えが間違っていることを知る。  水は吸い込まれているのでも、呑み込まれているのでもない。珠の表面に到達するや否や、その場で蒸発しているのだ。  そう、大地の神性魔法とは、超高密度の物質の引力による、万物の蒸発消滅だったのだ。 「……こりゃ、規模が違うなぁ……」  思わずそう溢した橙の王が見つめる先で、敵である球体までもが小さな珠へと引き込まれていく。そして、あれほどまでに二人の王を苦しめた球体は、きつく絞られるようにしてぎゅるりと珠に吸われ、珠の表面で呆気なく蒸発して消え去った。  魔法の発動からここまで、まさに一瞬のできごとである。  敵を屠った珠は、再び一度またたいてから橙色へと色を戻し、そしてそのまますっと消滅した。残されたのは、無惨に抉られた大地と、炎の残り香と、そして、 「…………グランデル、王、」  対象や範囲の指定は滞りなく行った。故に、橙の王の魔法が赤の王に作用することはなかったはずだ。だが、神性魔法発動直前に敵が放った攻撃の行方は、橙の王にも判らない。  果たして、災厄の中心にいた赤の王はどうなったのか。  それを確認しようとした橙の王は、しかしその目で地上の赤の王を捉える前に、全身から力が抜ける感覚と共に意識を手放した。
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