白と黒

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 生きてはいる。かろうじてまだ、その命は繋がれている。だが、半分ほど開いた虚ろな目は何も捉えておらず、薄く開いた唇は動きもしない。ただ、まるで死に抗うように繰り返される呼吸と、浅く上下する胸だけが、彼が死んでいないことを示している。  だが、こんなものは生きているとは言わない、と白の王は思った。 (……これは、もう……)  地面に染み込んでいるのは、夥しい量の血液だ。間違いなく赤の王のものだろうそれは、一目で判るほどに致命的な量で、こうしてまだ息をしているのが不思議なほどである。  救えない、と、白の王が胸の内で呟く。回復魔法が癒せる範囲は、限られている。確かに、白の王ほどの力があれば、他の人間では手の施しようがないような重症でもたちまち治癒することができるが、それにも限度というものがある。  赤の王の状態は、すでに手遅れだ。彼は死の淵に立っているのではない。もうほとんど死んでいるようなものなのだ。いくら白の王でも、死んだ命を蘇らせることはできない。  赤の王を見つめたまま動かない白の王に、ライデンがまた、救いを求めるような鳴き声を上げた。だが、白の王はただ黙したまま、赤の王を見つめ続ける。
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